EP.2 いつまでも従姉妹のままじゃいられない

「お兄ちゃんのバカっ…。なんでそうなるの…」


 伊藤斐音は焦っていた。

 想い人である伊藤颯いとうはやてがいつま経っても自分の好意に気づいてくれないことに。


 颯はラブコメに出てくるような鈍感難聴持ち主人公である。

 普通、可愛い女の子が毎朝起こしにきたり、ご飯を作ってくれたり、お世話をしてくれたりするだろうか?


 このことには颯の両親も頭を抱えていた。わざわざ颯と斐音をくっつけるため、二人を同じ家に住まわせているというのに一向に颯が斐音の想いに気づかない。

 

 このままではいつまで経っても颯の従姉妹というポジションだ。


 焦っている理由はそれだけではない。


 颯は好青年で学校では人気がある。

 うかうかしていると颯を他の女の子に奪われてしまう。

 そうなれば今まで颯に尽くしてきた分が台無しになる。


 伊藤斐音は覚悟を決めた。


 鈍感難聴持ちの伊藤颯が聞き取れなかったことを包み隠さず伝えることを。


 そう決心した斐音は颯の方を向き、意を決したように言った。


「私ね、さっきお兄ちゃんと二人っきりでデートしたいって言ったの」


 ◇◆◇◆◇


「ん?」


 斐音が今、デートしたいみたいな発言をしたような…気がする。

 寝ぼけてるのかな僕?


「ごめん、聞こえなかった」


 曖昧だったので聞き返すと斐音がゆっくり深呼吸をし始めた。

 そして頬を赤らめながらも意を決したように言った。


「お、お兄ちゃんと二人っきりでデートしたいって言ったの…!」


「………」


 正直どう反応していいか分からない…。

 斐音が僕とデートしてなんの徳になるのかも分からない。

 だだ、兄さんからお兄ちゃん呼びになったことは嬉しい。


「別に良いけど…?」

 

 予定もないし、斐音も出掛けたいと言っているから付き合おう。

 耳鼻科はいつでもいけるしね。


「ほんと…!」


 子供の頃から斐音の笑顔は変わらず向日葵のように明るく可愛い。


 だから僕は…。


「うん。じゃあ昼ごはん食べたらどこに行くか決めよう」


 こうして僕は斐音とデート?をすることになった。

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