【完結】鈍感難聴系な僕にもわかるように、よく聞こえなかった言葉の意味を恥ずかしがりながらも丁寧に解説してくれる従姉妹の斐音ちゃん

悠/陽波ゆうい

EP.1 従姉妹の斐音ちゃん

「おにいーちゃん!」


 僕の腕をくいくいと引っ張る小さな手。


「ん〜?なーにー?」


 振り向くと向日葵のピン留めを付けた可愛らしい女の子がニコニコしながら僕を見ていた。


「わたし、おおきくなったら、おにいちゃんとけっこんするっ!」


 向日葵のような明るい笑顔で僕にそう言ってくれた女の子。


「じゃあぼくもおおきくなったらけっこんする!」


 子供同士のたわいのない結婚の約束。



 あれ?誰かが僕を呼ぶ声がする…。


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 なんだかとても懐かしい夢を見ていた気がするが、誰かに身体を揺さぶられ現実へと引き戻された。


 微睡の中、薄らと目を開けると、女の子が顔を覗かせていた。


「兄さん、起きて?」


 ソプラノのような心地いい声色で起こしてくれたのは僕の従姉妹にあたる伊藤斐音いとういのんだ。


 綺麗に手入れされたミルキーブラウンの髪。大きな青い色の瞳。絹のような白な肌。そしてチャームポイントである向日葵のピン留め。

 誰がどう見ても超絶美少女である。


「おはよう…いのん…」


 眠い身体を起こし斐音に挨拶する。

 斐音はやれやれと呆れ気味で言った。


「おはようというかもうお昼だよ、兄さん」


「えっ、嘘」


 時計を見ると確かに十二時を過ぎていた。

 いくら学校が休みだとはいえ昼まで寝てるとは…。これじゃあ登校日に朝起きるのがだるくなるな。


「起こしてくれても良かったのに、ふぁ…」


「それは悪いよ…。それに兄さんの寝顔を堪能してたし…」


 まただ。


 僕には最近悩みがある。それは斐音の言ってることがたまに聞こえないことかあることだ。

 僕の耳が悪いのか、斐音の声が小さいのか分からない。

 でも斐音がボソボソと小言で言っているから僕には関係ないことか大したことではないのだろう。



「朝ごはん…じゃないな。昼ごはんある?」


「昼ごはんだけど朝ごはんの残りがあるからそれを食べよっか。足りなかったら追加で作るよ」


「多分、追加はお願いするよ」


 斐音の料理はとても美味しい。

 一つ一つが丁寧に作られていながらも栄養バランスが整っており、料理が出来ない僕は非常に助かっている。



「ちなみに今日の予定とかなんかある?」


「今日の予定?特にはー。……出来れば兄さんと二人っきりでデートしたいけど…」


 ほらまただよ。


 特にはーから聞き取れなかった。

 僕はもう耳鼻科に行った方がいいのか?今日は何も予定はないし、いっそのこと耳鼻科に行くか。


「僕、今日は耳鼻科に行こうかな」


「えっ、急にどうしたの?」


「なんか最近、斐音の言ってることが途中から聞き取れなくて…」


 僕がそう言うと斐音が危機迫ったような表情になった。

 そして僕から距離を取り、何やら呪文のように呟き始めた。



 えーと、僕の耳を心配してくれてるのかな?

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