第3話

目が覚めると、もうベッドに義妹の姿は無かった。

多分、自分の部屋にでも居るのだと思うが…本当に自由だな。


しかし、やけに暖かいと思ったが、布団を掛けてくれたのか。


「優しい所もあるんだな、ちょっと自由過ぎるけど」


まあ、元々は俺の布団なんだが。


さて、まだ起きる気にならないし、もう少し横になってるかな。

俺は、布団の中で俺の腕にしがみついている寧々子を起こさないように、もう一度横になって布団をかけ直した。


…。


今、地の文に無視出来ない情報があったな?

そうなんだよ、布団が不自然に膨らんでる。

そりゃあ、あったかい訳だよな。暖め合ってた訳だから。

だがな、まだ俺は、義妹の存在を目視してない。

観測するまでは確定してないんだ。

シュレディンガーの寧々子だな。


「おにい、寝にくい、動かないで」

「おっと悪いな」


今、観測されたので確定したが。

あと、呼び方が今度は"おにい"か、色々変わるなぁ…まだ呼び方が固まってないのかな。

俺は、取り敢えずその布団のふくらみに話しかけてみる。


「いや、なんで隣で寝てるんだ…ああ、布団掛けてくれてありがとうな」

「床でひざ掛けだけ、寒そうだった」


くぐもった声で返事が返って来た。

いや出ろよ。ダメだ下着しか着てないんだ出ないでくれ。


「…それで義妹よ、何故隣で寝てるの?」

「おにいに布団を貸したから、寒かった」

「いや俺の布団なんだが…」

「だから、おにいもベッドに入ればよかった」

「ええ…いや、女の子と一緒にそれは…流石に、な?」


いくら俺が巨乳派でも、我慢できる自信ないぞ。


「ぬー、わたしたちは家族」

「もうその手で誤魔化されねえぞ。

 あのな…下着姿の女の子と、一緒のベッドに入れる訳ないだろう」

「ふっ、それはもう、過去の話」

「なに…?」


もぞもぞと布団から這い出てきた義妹は…服を着ている?しかも見覚えのある!


「それ俺のパーカーじゃねえか!」

「ぬふ、これなら下着も見えない」


ああ、体格差があるから、ブカブカだ。萌え袖になってるな。

下はミニスカートみたいになって、華奢な生足にドキドキ…んん、あれ??


「おい、いもうとよ、下は?」

「はいてない、上だけ」

「ズボンを履け! もう俺のでいいから!!」

「むー、パンツ見えないから大丈夫」

「見えそうなんだよギリギリなんだよ!!」


やけにエロっぽいと思ったよ!!

ワンピースみたいに着こなすな!!全く…。

あとで、こいつの部屋から服持ってくるか。


「むぅ、仕方ない。おにい、はかせて」

「いやズボンは自分で履けるだろ…」

「ぶかぶかして出来ない」

「ああそっか、手が袖から出てないもんね」


うん、もういいや。俺がやったほうが早いし。

といってもジーンズじゃ足の裾余り過ぎて歩けないだろうし。

部屋着にしてるスウェットの下でいいか。長いから捲らないといけないけど。


「じゃあ、はかせるぞー」

「うん、わかった」

「ベッドに座るな!見える見える!!」

「じゃあこう」

「尻を向けるな!ああもう!!

 そうじゃなくて、俺の肩につかまって立っててくれ…はあ」


う、また心労が、不整脈が。


「よし、下から入れるぞ。足あげてくれ」

「ん、おにい、なかなか入らない?」

「ああいや、そんなに足上げなくていいから…」


パンツみえちゃうからな。

うーん、やっぱりズボンのサイズが違いすぎるか?


「…おにい、やっぱりちょっと大きい」

「いや、仕方ないだろ…ほら、もうちょいで入りそうだ」


全く世話が焼けるな。

でも、実際に年下の妹がいたら、こんな感じだったんだろうな。


「ん、おにい入った」

「いや、まだ半分だからな」


片足だけだしな。


ん、なんか物凄い悪寒が……!!!!!!

なんだ?!今俺の危機感知センサーに、かつてない程の反応が…!!!


と思っていたら、物凄い勢いでドアを連打された!!


『ちょっとあなたたち!中で何をしてるの!?』

「え!!み、美夜さん!?」


ドアの外から、美夜さんが慌てた様子でドアを叩いてる…!

あれ、待ってくれよ…もしドアの外で会話を聞いてたなら、この状況どう思う?


”よし、下から入れるぞ。足あげてくれ”

”ん、おにい、なかなか入らない?”


”…おにい、やっぱりちょっと大きい”

”いや、仕方ないだろ…ほら、もうちょいで入りそうだ”


”ん、おにい入った”

”いや、まだ半分だからな”


「あああああああ!!あああぁぁぁぁぁ゛!!!!!」

「ぬう、おにいが壊れた」


まずいまずい!絶対誤解されてる!!


『あなたたち!ナマは駄目よ!!』

「ナマじゃなくても駄目だろ!!」


美夜さんはもう少し、娘の貞操観念に厳しくした方がいい。


『どうしたんだい?』

『ああっ、あなた!実はかくかくしかじかで(略』

『なに?それは大変だ!』

『そうなの!子供たちの成長の瞬間よ!』

『ああ、見逃す訳にはいかないな!すぐに鍵を開けよう』

『おねがい!あたしカメラ持ってくるわね!』

「待て待て待て!!」


息ぴったりだな!!

あんたら本当に新婚か!?


「おかあさん、楽しそう…」

「お前、そんな優しい顔できたのか」


うっすらと微笑んでる、少し大人びた表情だ。

片足だけズボンに突っ込んでる恰好じゃなけりゃな。


「おにい、この体制つかれる…!」

「お、お前あんまこっちに体重かけるな!てマジで危ない!!」


後ろに倒れ込んだが、なんとか寧々子の身体だけは支えた。

倒れる時、机か何かに頭をぶつけたが。


「おにい大丈夫…!?」

「いたたた…くない痛くない、大丈夫だから」


少し泣きそうな顔になっている寧々子。結構いろいろ表情あるんだな。


「ほら、俺は大丈夫だから泣くな」

「む、別に泣いてなんか…?」

「ん、どうした…?」


ああっ親の事忘れてた。

すでに、両親達は俺の部屋に侵入している…。


客観的に、俺たちの今の状況を見てみよう。


俺は仰向けに倒れてる。寧々子が倒れない様に支えた手は、丁度つつましい胸を押さえたままだ。

寧々子はその俺の上…腰のあたりにまたがってる。

下半身はズボン半脱ぎでほぼ下着でだ。

その義妹は、なぜか倒れた勢いで俺の上着をまくり、脱がせてるような恰好に。


今、俺の中のお奉行様が『もはや言い逃れは出来んぞ!』と、凄い剣幕で処する寸前だ。

無理だ、これはご沙汰が下る。


親父は腕を組み、何故か悟った顔でウンウンと頷いている。

美夜さんは、手に持ったデジカメをスッと構えた。


――パシャパシャパシャパシャ!!


「ああ!やめて撮らないで!連写はやめてくれーーー!!」

「ぬう、フラッシュまぶしい」

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