君と始める物語
八雲るい
第1話 回想~桜の華
1
「‥‥‥桜、か」
頬に何か冷たいものが当たった気がして手で触れると桜の花びらが手のひらに落ちた。ひんやりと春の冷たさを感じさせるが、その綺麗な桜色につい魅入ってしまった
そういえば、あいつも桜が好きだった。
涙腺が緩くなりそうなのを必死に堪えて僕は前を向いた。今日から高校2年生、1年前ここを通ったときは何を考えていたんだろうかと思ったがつい笑ってしまった
「ほんと、なんでだろうな」
答えは分かってる、あの時の僕はまだ過去の出来事が辛くて思い出したくもなくて‥‥‥いつからだろう、僕が変わったのは。僕の中で、大きく変化が起きたのは
「あぁ、そうだったな。あいつが教えてくれたんだよな。誰かを好きになることの尊さを」
──でも、それ以上に。
悲しいこともあった
つらいこともあった
彼女と一緒に帰れない日は胸が痛かった
恋愛は、楽しいこともある
けど、とても儚いんだって。彼女と出会ってから分かった
彼女に「好き」って気持ちを伝えるだけでもとてつもない勇気と、断られたら‥‥‥そう思うと怖くて中々思いを伝えれなかった
そもそも僕なんかで釣り合うのかって何度も考えた
今の友達という関係が、親友という関係が壊れるくらいならいっそのこと──
何度も何度も一人で考えては自己嫌悪に陥ったり、どうしてこんなに自分に自信が持てないんだって自分を責めたこともあった
つらかったんだ、一人で抱えこむのは
誰かに相談できたらどれほど気が晴れるだろうか
でも、これは僕の問題だった、過去の出来事のせいで二度と誰も好きにならないと決めたはずなのに。どうして彼女を好きになってしまったのかと
情けなかったんだ
ほんとに、惨めだった
でも、それでも僕は。変わろうと決意した
「あの時、悩んだままだったら──」
考えたくもない。悩んだままだったらずっと変われなかったんだ、だからあの時の僕は気持ちを伝えれてよかったって心の底から思ってる
「ありがとう、紗菜。おかげで僕は──いや、俺は変われたんだよ。昔より男らしくなったよ、もう昔みたいに女々しくなんてない、言いたいこと、本当に思ってることは今ならなんでも言える」
だから────
「俺は忘れない、あの時感じた感情を」
2
1年間を振り返りながら思いにふけっていると声をかけられた。気づくとそこは高校の前だった、後ろに振り向くとそこには彼女の親友である葵が立っていた
「おはよう、──春」
「あぁ、おはよう葵」
葵とはあんまり話したことはなかった、彼女の親友だからといって僕の親友というわけではないのだ。けど、2週間前から少しずつ話すようになった
「葵、──あのさ」
僕は思いきって葵に聞いてみたかったことを聞くことにした
「‥‥‥なに?」
反応は予想通り、まだ仲がいいってわけではないから当たり前だ
「葵さえよければだけど、教えてほしいんだ。葵は──」
話し始めるとついたくさん言いすぎたみたいだった
葵は少し困った顔をして、その後軽く微笑んだ
「──がね、あんたのこといつも言ってたよ。でも、私はあんたと話したことなんてなくて、別にこの先関わらなくてもいいって思ってたけど。親友の頼みは無下に扱えないかな」
「そっか、ありがとう」
そう言って僕は葵と話しながら校門をくぐった。辺りは桜の花が咲き誇っている
「──。俺は変わったよ」
誰にも聞こえないくらいの声で、だけど彼女に向けて発したその言葉は桜の花びらと一緒に空へ舞っていった
────────────────────
こんにちは、こんばんは。
るいです。
アルファポリスでも同様連載中です。
今回は1話目ということで、回想から入ります。突然1年くらい先に行ってますが回想なので気にせず読んで頂けたら幸いです。
誤字脱字等、他アドバイスや応援メッセージなど気軽にお願いします。
それではまた2話で会いましょう。
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