龍焔の機械神08 変形少女(仮)【下】

ヤマギシミキヤ

序章

「ちくしょうっ、ボクたちが離れてる間にそんなことがあったなんて!」

 思わず飛び出した陽子は鉄岸を走りながら巨影を追う。追い付かないと分かっていてもその巨躯を遠くに発見した瞬間に走り出していた。

「人生とは得てしてそんなものだ」

 隣にいた鬼越も相手が飛び出した瞬間に追従するように走っていた。

 犬飼陽子いぬかいようこ鬼越魅幸おにごえみゆきの二人は、黒龍師団本拠地から、故郷である方舟艦隊に帰ってきたばかりだった。

 本拠地において正式な手続きを経て、陽子は機械神操士補となり、鬼越は機械使徒操士候補生となったのだが、その間に方舟艦、特に二人が生活していた神無川艦において大きな動きがあったのだ。

 機械神八号機から転落してきたスズと名付けられた自動人形。

 二十年前に全滅した筈の怪生物の生き残りの存在。

 黒龍師団の駐屯地のある第弐海堡に到着した二人は、それを聞いて取るものも取り敢えず神無川艦に戻る途中で、海路を進む八号機に遭遇、送ってもらっていた水上保安庁の水陸両用戦車から飛び出して鉄岸を走ってそれを追っている処であった。戦車で走るよりも彼女たちの足の方が早いのである。

「ああ、消えちゃう!?」

 海の向こうを進む八号機の周囲に霧のようなものが出現し、その巨体を隠し始めた。

「なんであんな都合良く霧が出てくるんだろう?」

「重力制御か電磁誘導で海水を微量に吸い上げて水蒸気のようにしているのだろう。それを本体にまとわりつかせて霧のように見せている」

「そうか!」

「本拠地で機械神の構造の講義も受けただろう。それぐらい予想しろ」

 そうこうしている内に目標は完全に霧の中に隠れ、それが海風で散らされると八号機は消失していた。

「消えた」

「さすがに機械神が一瞬で消える機能を持っているとは教えられていないが。一体どんな機構メカニズムで消えるんだ?」

「海に潜っちゃうんじゃないの?」

「そんな単純な」

 二人が言い合っていると背後から履帯クローラーの走行音が近付いてきた。鉄岸は斜めに傾斜しているので、そこを車両が高速で走るのは難しく、二人が止まってようやく追い付いた。

「とりあえず八号機から落ちてきたっていうスズちゃんってに会うのが先決か」

 二人は水陸両用戦車に戻ると、再び帰還の徒についた。

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