「あいつはまだ?」「また遅刻だろ」
出席番号6番「遅刻常習犯(の友人A)」
やあ。
みんな、久しぶりだね。
って、これでいいのかな?
ボクは遅刻常習犯の友人。友人Aさ。
そのまま友人Aとでも呼んでくれて構わないよ。
と言っても…
ごめんね。覚えていないんだ。
話はいつのことだったかな。
ああ、そうそう。ボクに同窓会の案内が届いた頃の話。の、はずだよ。
消印から考えるとね。
ある道路でボクは事故に遭った。
ただいま、ボク記憶喪失中。
頭の中は真っ白白紙。
ということで改めまして。
コホン
やあ。みんな、久しぶりかな?
ボクのこと、覚えてる?
ちょっと自分のこと忘れちゃったんだけど、教えてくれないかな。
ある日、病院で目が覚めたら体はギシギシばきばきのボロボロ状態。
なんだこれ?! って思わず叫んだよ。
近くにいた白衣の医者、看護師だったかも、彼らに聞いたら誰もがおんなじ返答をくれた。
「貴方、事故に遭ったんですよ? 覚えていないんですか?」
ボクは何も覚えていなかった。
自分がボクなのか俺なのか僕なのかオレなのか、それとも他の言い方だったのか。それすら思い出せない。
病室には誰も訪ねてこない。なかなか治らないケガだけが「お前はまだ生きているんだぞ」と言っているみたいだった。
何日経っても思い出すことはなくて、病室が個室から相部屋になったことくらいしか変化がなかった。
相部屋の少年から押し付けられたマンガや本やアニメDVD、映画、ゲームをひたすらこなして、たまにエロい雑誌を隠し読みして。
それなりに楽しかったよ。
真っ白になったボクの頭の中に詰めたのは、そういうものだったんだ。
ただ、枕元にあった机の上にはいつも一通の手紙が置いてあった。
そう。同窓会の案内だよ。
『約束したあの場所、あの時間でお待ちしております』
今のボクは真っ白な白紙。こんなあっさりと白紙になるなら、きっとこれまでの人生も特別な道を辿ってきたわけじゃないんだろうね。
別に自分が嫌いってことじゃないよ。ないけど、ただ、ありきたりの人生だったんだなって。そう思っちゃうんだ。
実際どうだったかは思い出せないけどね。
でもさ。この場所に来て、君たちと逢って、同窓会に参加して、一個ずつ話を聞いてるとさ。
…うん。
いいね。
なにか、思い出せそうだよ。とても、とても懐かしい。
自分の中の白いページたちが埋まっていく感じがする。
いや、ちょっと違うかな。
今聞いてる話たちはどれも新しい話だ。
どれも、「今の」ボクが初めて聞いた話たちばかり。君たちがそれぞれ持ってきた話だ。
それをボクのページに書き写していくのは、ちょっと勝手すぎだよね。
そうだな。共有とか同化って言った方がいいかな。
結局は宿題を写してるのとおんなじ?
そんなのでもいいじゃないか!
ただいま、ボク宿題を写す作業の真っ最中。
なーんてね。
でも、なんだろうな。
いくつも話を聞いているのに、まだ一番会いたいはずの友人が出てきていない気がするんだよね。ボクの友人って、そんなに遅刻常習犯なの?
『どうせお前は×××××××』
ねえ、もっと聞かせてよ。
そうすればさ。きっと「今のボク」は君たちのよく知ってる「あの頃のボク」に戻るだろう。
で?
ボクにも何か話せって?
そうだな。
事故に逢ってから一年目にね、その時にはさすがに病院だって退院してたんだけど、初めて行ってみたんだ。自分が車に跳ねられたその場所。
それまで行きたいなんて思わなかったんだけど、急に行こうと思ったんだ。
そこに誰かいる気がしてさ。
そうしたら、まさにボクが倒れていただろうその場所に向かって手を振る誰かがいたんだ。
そいつはさ。自慢げに、さも時間に間に合ってやったぞって言う顔をして手を振っているんだ。
ボクはそれを遠くから見ていただけなんだけど。
そいつを知ってる気がするんだ。
大事な、忘れちゃいけない奴の気がするんだ。
でも会えないんだよね。
ボク、全部忘れちゃったからさ。
会っても、もうそいつのことわかんないんだ。
ただひとつ。方法があるっていうなら。
こうするのが正しいんだろうな。
そう思って、ボクは、こうした。
お世話になった病院の人たちには悪いことをしたな。でも、一回は逝きそびれちゃったんだからしょうがないじゃないか。
ボクは、病院の屋上から飛び降りた。
あ、同室の子にマンガ借りっぱなしだ。サーセン。
これでボクの話は終わりだよ。
じゃあ、みんなの話の続きを聞かせてもらおうかな。
はやくおいでよ。
君のためにこうしたんだよ。遅刻常習犯君。
君のために、話をわざわざ伸ばしてあげたんだよ。遅刻常習犯君。
ボクの(忘れてしまった)大切な親友君。
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