ふるいおとぎ話「狸村の援軍」

昔むかし、桜ヶ原のお城にはとても優しいお姫様がいた。

小さなお姫様はどんな人にも、どんな動物にも優しくし、みんなから好かれていた。


ある時、お姫様が一匹のタヌキを助けた。

そのタヌキは、桜ヶ原の大山にある狸村のタヌキだった。ケガをしたタヌキを城へ連れ帰り、歩いて再び生活できるようになるまで面倒をみたお姫様。

タヌキは大層感激し、城を去るとき「このご恩はこの地の桜が全て枯れ死ぬまで忘れませぬ」と言い残した。


ある時お姫様が池で溺れた。

誰も見ていないところで溺れたお姫様。助けることができる者は誰もいなかった。

もちろん、何故お姫様が池に近づいたのかさえ誰にも知ることはできなかった。


お姫様の両親は悲しんだ。

そして、お姫様のいなくなったことを知った桜ヶ原の民もきっと悲しむだろう。ああ、彼らに何て伝えればよいだろうか。

その時、隣国との戦が近づいていた。士気の下がった国が攻め込まれれば勝利は難しい。


そこにポンと一匹のタヌキが現れた。お姫様が助けた、あのタヌキだった。タヌキは言った。

「姫様に助けていただいたこの命、使いましょう」


そして、戦は勝鬨を手にした。

城には変わらず優しく微笑むお姫様。

戦場には桜の紋の散る鎧を纏う兵と、毛皮をあしらった鎧を纏う兵が共闘したという。

彼らは「桜ヶ原のために。姫様のために。」と声を掛け合い、戦場を駆けていたという。


戦は終わり、毛皮の兵が城を去る日、お姫様が彼らと共に城を去ると言い出した。彼らの住む村へ行くのだと、お姫様は言った。


此度の戦に尽力をいただいた彼らへの褒美として姫が嫁ぐのだという。

嫁ぎ先は、彼らの頭である。

そういうことならばと、桜ヶ原の民は大いに喜び、城の家臣たちも笑顔でお姫様を送り出した。


かくして、お姫様は桜ヶ原から姿を消した。

見事な幕引きであろう。







お姫様の両親はタヌキに頭を下げる。

まずは毛皮の兵たちに助力いただいたことを。

そして、彼らと共にいるお姫様に「姫のさいごを演じていただいた」ことを。


目の前に立っていたはずの兵と姫は一瞬のうちにどろんと姿を変えた。そこにいるのはタヌキたちであった。

狸村に住む、化け狸たちであった。


「どうか顔をお上げください」

「我らはかの姫様にいただいた恩を返したまで」

タヌキたちはそう言って狸村へと帰って行ったそうな。

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