異世界召喚された元最強勇者は宮廷魔導師となり、愛娘たちと愛妻に囲まれまったりパパ生活を満喫することになった

シンギョウ ガク

第1話 プロローグ1

 これは俺の名がまだ美山大翔みやまやまとだった頃の話だ。


 社会人一年目の初出社の日、突如としてできた黒い穴から聞こえた声に引き寄せられ、異世界に召喚された俺は勇者となった。


 召喚された先は、某国民的RPG世界に似たユズシラドル世界の国家の一つ、ゼぺルギア王国。


 俺を召喚したのはそのゼペルギアの国王で、名はムエンと言う。


 小太りで嫌味たらしい目をした、いけ好かないむさいおっさんだ。


 現代日本でピッタリな言葉を当てはめるとしたら……『パワハラ上司』という言葉がしっくりくるだろう。


 そんな王様の命でゼペルギア王国に召喚された俺は、勇者としてのチートは全く無く、十数年かけて地道に魔物を倒しLV上げを行った。


 そしてLV99に到達した勇者として、魔王軍に攻められ滅亡しかかったゼペルギア王国を何度も救い、最強の魔王と言われたフォボスを倒すことに成功していたのだ。


 本当に長く苦しい戦いの日々を、心折れずに過ごしてきたと思う。


 辛く苦しい魔王軍との戦いの日々を折れずに戦い切れたのは、早くに亡くした両親から言われた『困っている人を助けられる人間になりなさい』という言葉があったからだ。


 俺が魔物を倒し、そのことで誰かの笑顔が守れると思えば、辛く苦しい一人ぼっちの戦いも頑張れていたのだ。


 そんな思いを抱き、歯を食いしばって倒した魔王討伐の祝いの式典が行われている王城の大広間に今、俺はいた。


「勇者ヤマト・ミヤマよ。よくぞ、魔王フォボスを討ち取ってくれた。心から礼を申すぞ。国民もお前のことを褒め称えておる」


「褒めて頂き、ありがたいとは思いますが……。魔王は滅び、魔王軍もこの国では崩壊したも同然です。ですので、そろそろ元の世界に帰らせて頂きたいのですが」


 以前から日本に帰りたいと言うたびに、ムエン王は俺に『この世界で生きるしかない』と言っていたのは知っている。


 だが、魔王を倒した今、何かシステムが変化を起こして帰還が可能になっていないか聞いてみた。


「何を申しておる。何度も言うておるが、この世界に来てしまった以上、ワシにお主を帰還させる手段はないと申したはずだ」


 やはり、帰れる手段はないか……。


 落胆した俺の様子を見たムエン王が親し気に肩に手を置いてくる。


「安心せよ。こたび魔王を倒した褒賞として、お主には好きに統治できる領地を与えようと思っている。これまでの功績に報いるのも王としての務めだからな」


 くれる褒賞と言っても、どうせこのケチな王のことだから、超田舎の荒廃した山村を一つ与えられるだけだろう。


 手間だけかかって実入りのないものを、普通は『褒賞』とは言わないだろう。


 それに、この十数年でこの男が俺に対しておこなった仕打ちはすべて忘れていない。


 諸悪の根源である勇者召喚システムのおかげで、召喚勇者の俺は魔物に倒されてもシステムが設置された王城へ死に戻りすることになっている。


 そのたび『おお、勇者よ! 死んでしまうとは情けない!』って心ない言葉を投げつけられたり、魔王軍からの防衛に失敗した村が焼け落ちた責任を俺のせいにしたり、その他色々と魔王軍との問題が発生すると俺に責任を押し付けてきた。


 この王にとって、召喚勇者の俺は、態のいい魔王軍関係の苦情処理係としか思っていないはずだ。


 はぁ、マジでこれならまだ日本でブラック企業に勤めてた方がマシだったかもしれん。


 召喚された時、『ヒャッハー異世界だぜー』って喜んだ俺をぶん殴ってやりたいところだ。


 目の前のムエン王はそんな俺の気持ちを知らずに、『異世界人の勇者風情に領地をくれてやるんだからワシを崇め奉れ』と言いたそうな表情をしていた。


「帰還は叶いませんか……。でしたら、領地はいりませんので、魔王討伐の褒賞として勇者の仕事を終え、お暇を頂きたく……」


「ならんっ! ワシが今までいくらお主に投じてきたと思っておるのだ。魔王こそ討たれたが、まだ国内には魔王軍の残党が蠢いておる。お主の仕事はまだ終わっておらぬのだ!」


「ですが、私がすでに強力な魔物は狩り尽しました。あとは王国軍の兵士でも十分に対応は可能かと思います」


「一介の勇者風情がワシに意見をしようとするのかっ! ワシはこの国の王だぞ! 魔王軍の残党が残っておる以上、そいつらを全て倒すまではヤマト殿の仕事は終わらぬと思って欲しい! それがこの国に召喚された勇者の務めであろう! 勇者として無責任な話をするんではない!」


 どうやら目の前の男には話が通じないらしい。


 それとも、魔王軍の苦情処理係の俺が辞めると国民からの苦情が自分に来るとでも思っているのだろうか。


 俺を呼び出した王に対し、十数年間で最大の失望を覚えていた。


「…………分かりました。ムエン王の期待に応えられるように勇者としての仕事に精励いたします」


 話の通じない上司に退職を拒否された俺は、仕事に対する意欲が急速に失われていった。


「それでこそ勇者ヤマト・ミヤマ殿だ。今宵は王城に泊まりゆっくりとされるがよい。一番『上等』な部屋を用意してあるからな。そこで次なる戦いへの英気を養ってくれ」


 俺はムエン王に一礼すると、祝宴の参加者が騒ぐ大広間から立ち去り、メイドの案内で今夜泊まる部屋に行くことにした。

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