死にたいあなたに生きててもらう方法

ArY

第1話

涙が頬をつたい唇を撫でる。

涙がしょっぱいのか知りたくて少し舌を出したら彼女は目を細めて笑った。

いつもは口角をあげる程度なのに、今日は機嫌がいいようだ。


泣き顔に浮べる笑顔は彼女の表情の中で断トツで綺麗だ。


舌に触れた涙に味があるのを感じて、私は彼女が人間だったことを知った。

気づくのが遅れても仕方ない、だってあまりにも人間離れしていたのだ。


雨の日でも靴から見える足の甲は濡れてないし、響く図書館の床を歩く音もしない。

あと彼女が座ったあとの椅子に体温が移ってないことも知っている。

不気味で妙に胸をざわつかせる存在だった。


―――――――――――――――――――――――


彼女を見つけたのは服が肌に張り付くほどの酷い梅雨の時期。

湿気で下着が透けそうな白いワンピースを来ていたにもかかわらず、洗濯したての清潔感があった。


白い服に黒い長髪のコントラストに目がいくが、不思議と周りの人間は見えていないかのように通り過ぎていく。


まるで幽霊だ。


失礼な考えだけどあながち間違えじゃなさそうな雰囲気に肌が粟立つ。


怖いもの見たさに少しついて行ってみようかと思ったら、偶然かどうやら目的地は私と同じ図書館のようだ。


傘を閉じている彼女に追いつくため、小走りで図書館の入口に向かう。


これじゃあストーカーで捕まるかもしれない。


心の中で苦笑いを浮かべながら素早く彼女の顔に目をやれば、幽霊は幽霊だけど綺麗なという言葉が似合う美人だった。

儚げだが芯の強そうなはっきりとした顔立ち。


今にも消えそうな儚さに見えるけど性格はどうだろうか。

顔の良さは彼女の方が段違いに上だけど、儚げな雰囲気の友達が部活の後輩にいる。

けど見た目に反してその子はとても我が強くてあまり好かれていないのだ。


幽霊のような彼女もそんな性格なのだろうかと、勝手に思うと嫌な目を向けてしまう。


その目線に気づいたのか、たまたまか分からないけど、ふと私に顔を向けた。

私を見下ろす瞳は、その儚さに反して光さえ飲み込む黒だった。

彼女は素知らぬ顔で、笑顔なのか分からない程度に口角をあげて頭を少し下げてきた。

その行動で瞳から意識が逸れると、風景と自分の思考が戻ってきた。


後輩のことを考えていたせいか、それとも目を奪われたせいか、小馬鹿にされたようでばつが悪い。


そんな気も知らずさっさと中に入っていった彼女は、雰囲気は似ていない後輩よりも冷たく感じた。


もうここには来ないでおこう。


この図書館は少し不気味で、彼女は何となくいけ好かない。

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