総集編3 今からでも間に合う「創世神話(改)」
第2章では、主人公ロウギ・セトは何処とも知れない宇宙空間に飛ばされ、ヒロインの歌姫シェリンは、ジグドル・ダザルに神経銃で殴打されて昏倒。
二人ともに絶体絶命のピンチでしたが……。
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第三章 混沌の無意識は模索する
1 事象分析局 ― 失われた記憶 ―
事象分析局長官タウジ・ガネは、惑星エラーラに送り込んだロウギ・セトの動きが悪く、しかも監視エリアからその体内信号が消えたことでイライラしていた。秘書のヘラがなだめる。どうやら、ロウギ・セトの関わる問題は、世間に知られると銀河中がパニックになるような大変なことらしい。
そこに、ロウギ・セトからの緊急通話との連絡があったかと思うと、ロウギ・セト本人が、いきなり瞬間移動で目の前に出現する。
しかし、ロウギ・セトは、限界を超える超長距離瞬間移動で消耗し、髪の色まで
やがて意識を取り戻したロウギ・セトは、巨大人工知能アルティマの使用許可を求める。アルティマを以てしても宇宙消滅のポイントが惑星エラーラだということしか分からなかった為に特殊能力を持つロウギ・セトが任務に選ばれたので、一刻も早く惑星エラーラへ戻れと言うタウジ・ガネ。
そこで明かされるロウギ・セトの秘密。銀河標準時間で推定1200年間漂流していた小型宇宙挺を、ラダスの宇宙船が発見し、既にサイボーグ化されていていた仮死状態の搭乗員に新たなサイボーグ化を施すことにより蘇生し、記憶は失われたが、それから既に七百年が経過しようとしている。それがロウギ・セトであり、異質な文明による二度のサイボーグ化手術が、彼の身体を超時空的構造に変えてしまったらしく、その結果、ロウギ・セトは未来の一部を読み、空間を瞬間移動する。
発見された小型宇宙艇は、今は存在も定かではないテラのものらしい。ロウギ・セトは、元はテラ人だったのか。
巨大人工知能アルティマとの半融合アクセスが必要である理由をロウギ・セトから聞いたタウジ・ガネは、危険も承知の上の彼の提案を受け入れるが、秘書のヘラは心配をする。人間というよりもコンピュータの端末に近い存在であるロウギ・セトが、もしアルティマに取り込まれてしまって戻ってこなければ、他に危機を収拾できる者がいないと。
地下空間に作られた銀色のドアの中もやはり眩しい銀色一色で、ロウギ・セトが前に進むと、身体が吸い込まれるように何かの窪みに密着し、融合した。さらに眩しい銀の光が、幾千億の矢となってロウギの脳裏に押し寄せた。
2 囚われの歌姫
手足を縛られ、口には
シェリンは、ファアティをまだ信じられないが、ここがヌール・ヴェーグ城の牢獄で、きっと精神を破壊されるほどの薬を使われるからと、解毒薬だという小さな包みを渡される。
去り際、ファアティは、諦めずに生きろと呼び掛ける。渡された解毒剤を呑んだシェリンは、再び気を失う。
一方、久しぶりに出廷したテムルル・エイグは、妹であり現宗主の次妃であり第一皇子の母であるリルデに待ち伏せされていた。
リルデは、兄を問い詰める。アスタリアの歌姫に出資し肩入れするのは何故か、国家反逆罪に問われても良いのかと。エイグの答えは、アスタリアの歌姫が血の繋がった実の妹だから。自分に構うなと言い捨てて去る兄エイグに、兄を慕うリルデは涙を流すが、背後から侍女に声を掛けられると、涙を拭って毅然として振り返る。
リルデが宗主の待つ居間に戻ると、新大臣シルニン・イクルの姿。リルデは、兄が目を掛けるアスタリアの歌姫に対する嫉妬に駆られ、危険な存在であるシェリンを、看守を殺して逃亡したことにしてソルディナに捨てればよいと、大臣シルニンに言う。「
3 アルティマの海(Ⅰ)
主人公ロウギ・セトの無意識の意識体は、人工知能アルティマの膨大な情報の海に沈んでいた。目を開いた彼の前に案内するように現れたのは、薄青色の線条のある細長くしなやかな銀白色の体に、
彼が再び目を開けると、宇宙船のブリッジに立っていた。船長ムナカタと副長のタニアが目の前にいて、疑いの目を向けている。
「乗員名簿にリース・イルリヤの名前は無い。No.7 の人工冬眠カプセルは予備。貴方は一体誰!?」と。
宇宙移民船ホープ号の人工頭脳であるPAMERAの乗員名簿に自分の名があることを数時間前に確認したばかりのリース・イルリヤは驚く。リース・イルリヤは、第三惑星の調査が必要だとして有人探査艇での調査を提案する。
一方、人工冬眠中の移民の一人である
リース・イルリヤは、何故か
4 ヌール・ヴェーグ
ヌール・ヴェーグ城の高い塔の上では、トルキルが軟禁されていた。新しく大臣となったシルニン・イクルが、部下を連れて訪れ、貴族の最上位の大公である為に、牢獄ではなく、塔の上の部屋で生涯を送ることになるらしい。
トルキルは、アスタリアの歌姫は無実だと訴えるが、シルニンは、ジグドル・ダザルが執念で口を割らせるだろうと答える。
一方、牢獄のシェリンは、ジグドル・ダザルによって、自白作用もある夢見草の搾り汁を無理やり飲まされるが、効果が無い。
ジグドル・ダザルは、慌てるよりも寧ろ楽しむかのように、夢見草から精製した薬品をシェリンの首筋に注射する。どうせ、看守を殺してソルディナに逃亡したことにするのだから、死んでしまっても構わないと。
薬は静脈の中で沸騰するように激しい痛みを起こし、シェリンは意識を失う。
5 アルティマの海(Ⅱ)
ロウギ・セトの意識体は、“リュウグウノツカイ”に導かれ、天使の
意識を取り戻した彼は、傷付き疲れて、美しい二重の虹が架かる泉のほとりにいた。二重の虹を
そこに、花の
戦禍によって幼い頃に引き裂かれてしまった二人の過去。遺跡の中の安全な岩屋に彼を
しかし、突然やってきた見知らぬ男ガンダイルが、アスナールこそ森番の子として育てられた東の国の王子であると告げる。
「必ず戻ってくるから待っていてほしい」と彼はエルリーダと誓い合い、旅路に向かうが、国境近くで現れた別の男トウレイクにより、ガンダイルの話は虚言であり、エルリーダこそが西の国から幼い頃に連れ去れた王女であると知らされる。
北の国に連れ去れたエルリーダを追って山鹿の背に乗り山野をひた走るアスナール。山鹿を返し、徒歩で尾根を越え、北の国へと続く氷の平原に足を踏み入れたアスナールの目の前の宙に、エルリーダを連れ去ろうとする何者かの影。長い銀髪と赤銅色の肌と朱金の瞳の、人知を超えた存在に、彼は成す術もなく絶叫した。
6 夢見草の夢(Ⅰ)
夢見草の彼岸の夢に沈むシェリン。
ベッドで目を覚ました彼女は、ルームメイトにユエファと呼び掛けられ、自分の名が
手続きを済ませ、後は人工冬眠準備室に向かうだけ。宇宙ステーションの展望室から、見納めとなる地球を眺めるユエファの目の前を、ホープ号の操縦士リース・イルリヤが通り過ぎる。目が合ったと思ったのは気のせい?
人工冬眠準備室に向かうエレベータに乗ろうとするユエファの前に、長い銀髪と赤銅色の肌と朱金の瞳の謎の人物が現れ、謎の言葉を語る。
無意識にとは言え、お前は既に“マナ”の力を発現させ始めている。その力が、周囲の者達の無意識の力を束ね、地球をバリアのように守っている。私の力をも跳ね返すその力は、一体どこから来るのだ? お前の胸に積もる寂寞、お前の魂に蓄積されたストレスから来るのか? お前の過去を辿ろう。どこにその秘密があるのか。そして、お前の未来を辿ろう。お前のその“マナ”の力が極大に達し、エントロピーの減少を最大限に引き起こせるのは何時なのか……
ただ一人、宇宙空間に浮いてその言葉を聞くユエファ。
謎の声は続ける。
「娘よ、これは彼岸の夢の中。さらに深く、過去世の夢へと沈むのだ。お前の捜す唄も見つかるだろう」
7 アルティマの海(Ⅲ)
ロウギ・セトの意識体は、人工知能アルティマの膨大な情報の海に溺れていた。“リュウグウノツカイ”が近付こうとするが、矢のような稲妻に逃げまどい、ついに刃のような光に切り裂かれ、彼の意識体もまた光の矢に刺される。
うつ伏せに倒れていた彼が目を覚ますと、
彼は、自分の名を思い出せない。子供の頃に災害から逃れたところを宇宙船に連れ去られ、番号で呼ばれて不毛の開拓惑星で鉱石採掘の労働を強いられ、何もかも忘れていったのだ。せめてもう一度故郷の青空を見ることが彼の夢。その為に彼は脱走し、密航して惑星セナンに戻ってきたが、故郷の惑星は変わり果て、荒廃していた。
目の前に、花を抱えた娘の姿。彼女も幻影だろうか。幼い頃に一緒に遊んだ少女に似ている気がするが、もう顔も名も思い出せない。
娘が彼に呼び掛けるが、名は分からない。彼も娘に呼び掛けるが、やはり名は分からない。
再び気を失った彼が目を覚ますと、病院のベッドの上。身元不明の彼は、数えられない数字「
彼女を助けた救世団は、荒廃した惑星セナンを放棄して旅立ち、その船に彼女も乗らなければならないと言う。
静かに語らう二人だったが、警報音が鳴り響き、地響きとともに崩壊が始まった。空を覆う隕石の群れ。奈落に落ちた二人の前に、虚空から見下ろす謎の影。長い銀髪と赤銅色の肌と朱金の瞳のその影は言う。
「引き離したはずだったのに、やはりお前達は再び巡り会ったのだな。だが、それでこそ、私の目的には適うだろう。お前たち二人は、出会い、そして引き離される。どんなに抗おうと、それがお前達二人の運命。互いの存在を決して忘れずに魂に刻み、記憶の奥底へと沈めよ。積年の無意識の想いが、いつか私の計画に必要となるだろう」
8 夢見草の夢(Ⅱ)
シェリンは夢見草の彼岸の夢に沈み、深い記憶を辿っていた。唄を捜す為に。
ふと目を覚ますと、まだ暗い。胸騒ぎを覚えて岩屋へと走る彼女。怪我をしたあの人の無事を確かめずにはいられずに。
彼女は彼の名を呼ぶ。アスナールと。彼は応える。エルリーダと彼女の名を呼んで。彼は無事だった。
しかし、見知らぬ男ガンダイルが現れ、アスナールこそ東の国の王子だと言って、彼を旅立たせる。必ず戻ってくるから待っていてほしいと告げるアスナールに、彼女もまた、必ず無事でいてと告げて、互いに誓い合う。
アスナールを見送った彼女が岩屋に戻ると、別の男トウレイクが、ガンダイルこそが北の国が放った刺客だと叫ぶ。
日頃は人前に姿を見せない白い獣一角の背にしがみつき、彼女はアスナールを追うが、国境の森近く、彼女の目の前で、アスナールは刺客に胸を刺される。
彼女が駆け寄ると、アスナールは微かに息があり、彼女に、見送りにあの祈りの唄を歌って欲しいと願う。
彼女は歌おうとしたが、その時には、アスナールは彼女の腕の中で絶命していた。
絶望し、アスナールを刺し貫いた血濡れた剣で自らも刺そうとする彼女の前に、長い銀髪と赤銅色の肌と朱金の瞳の謎の人影が現れる。
「娘よ、哀しむがいい。だが、その想いを遂げるのは今ではない」
辺りが暗くなり、山も森も空も消え、謎の人影の声だけが響いた。
「生まれ育った惑星が存在する限り、魂は故郷の星に輪廻転生し、お前達は螺旋状に絡まる運命の糸に手繰り寄せられ、再び巡り会うだろう。それが
彼女は、その声を聞きながら、煌めく星空を見たような気がした。声は続いた。
「だが、千年、万年、遠い時の流れの果てには、私の思惑も届かぬ
エルリーダの目の前でセナンの太陽が膨張し、惑星セナンが飲み込まれ、その閃光が、彼女の意識を一瞬のうちに消し去った。
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以上が、第3章の駆け足総集編です。
アルティマの海Ⅰと夢見草の夢Ⅰは対を為し、アルティマの海Ⅱと夢見草の夢Ⅱも対を為します。
※ アルティマの海Ⅰと夢見草の夢Ⅰ……序章の物語の前後
※ アルティマの海Ⅱと夢見草の夢Ⅱ……二重の虹が架かるナーランの谷の物語だが、微妙に違っている。
夢見草の夢Ⅱは、泣ける話です。私は書きながら何度も泣きそうになりました。作者だから思入れが強かっただけ? いえ、乙女ならきっと泣けると思います。是非、本編でお確かめください。重複する部分は極力削ってあるので、アルティマの海Ⅱと合わせてお読みいただけると分かりやすいです。「創世神話(改)」の他のエピソードを読んでいなくても、この二つのエピソードは楽しめると思いますよ。
それでは、第4章をよろしくお願いします。m(_ _)m
なお、参考資料として、総集編の登場人物編、用語・地名編、詩歌編を、この後に公開予定。不明な点があればご参照ください。m(_ _)m
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