第3話地下通路・終点地点
引っ張られていたはずの左腕が急に軽くなった。
痛い。熱い。
それよりも怖かったのは、
あったはずの左腕の感覚がなくなったこと。
(ざく)
こんどは、わたしのばん
目の前で食われた先輩のように、私も体を食われるんだ。
目を見開いて涙を流しながら、私は思った。
その時、後ろから私の右手が引かれた。
小さな手は、そのまま私を引っ張って走り出した。
(ざく)
何かの音がどんどん遠くなっていく。
(…ざく)
足音は私のものしか響いていないのに、目の前に小さな女の子が手を引いて走っているのが少し不思議だった。
でも、その背中は懐かしいものだった。
私は、その女の子を知っていた。
(……ざく)
何かの音は、もうずっと遠くへ追いやってしまった。
その女の子と手を繋いでいると、冷たいくらいに体温は感じないのに心が温かくなった。
肩まで伸ばした柔らかい髪、両サイドを縛った可愛い桃色のリボン。
ひらひらと舞う、あの子のお気に入りだった赤いワンピース。桃色に赤い花が咲いた、あの子が逝ってしまった日にも履いていた靴。
あっという間に外の光が見えてきた。その時、女の子が手を離した。通路を抜けるかどうかの瞬間に、私は振り返った。
その子は笑って手を振っていた。
懐かしい私のお友だち。小さな小さな、私の同級生。今はもういない、大切だった親友。
その子は言った。
「まだ、こっちにきちゃだめだよ」
通路の口を抜けた瞬間に、私の意識は暗闇へ落ちていった。
次に目を開いて見たものは、病院の白い天井だった。
というのが私の経験した七不思議。
迷惑なストーカー先輩による偶然の産物だった気もするけど、あのどこまでも続く真っ暗な通路へは二度と行きたくない。
私が思うには、あの通路は死後の世界へ繋がっているんだと思うの。
私たちが小学一年生の夏に交通事故で死んだあの子と会ったのがその証拠。
生きているこっちの世界から死後の世界へ行くには体が不必要。
だからね。食べちゃうんだ。あの通路が生きている人の体を。
あの時の私たちみたいに此方から彼方へいこうとする人の体をね。
迷惑な先輩はもうこっちへ戻ってこない。
私は、辛うじて左腕をなくしたけどかつての親友に救われた。
迷って迷って、ふと見つけたちょっとだけ雰囲気の違う地下通路は入る前に気を付けた方がいいよ。
その通路はお腹を空かせていて、通ろうとする生きた獲物を待っているのかもしれない。
気がついたときには、もう
「ざくり」
と、食べられちゃっているかもよ。
これで、私の経験した話はおしまい。
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