ゴーレムライダー

あさまえいじ

1話 ゴーレム教習所へ

 ずっと、ずっと昔、世界には神々がいた。

 人が誕生しても神は傍にいた。

 人に神は様々な事を教えた。

 人は神に感謝し、崇め奉った。

 世界は平和であった。


 だが、そんな平和は唐突に終わりを告げた。

 魔が生まれた。

 魔は世界を破壊し、人を襲い、神を脅かした。

 神は魔と戦った。神は偉大なる力を持って、魔を一蹴‥‥‥‥‥‥出来なかった。

 魔は戦いに特化していた。

 神は大きな力を持っていたが、その力は戦いに向いた力でない神も多くいた。

 戦いの最中、神はある決断を下した。神の力を結集し、魔と戦う者を作り上げることを。

 数多の神が待ちうる権能を使い産み出した戦う者、その名は『ゴーレム』。





「やっと着いた‥‥」


 『ゴーレム教習所』、看板に書かれている文字を見て、俺は万感の思いが溢れ、ぽつりとつぶやく。

 俺の名前はゼファー・プライド。歳は16だ。

 故郷の村から仲間と共にこの『ゴーレム教習所』にやって来た。


「まさか村を出て3日も掛かるなんて‥‥‥‥でも、これで漸く、俺もゴーレムライダーになれるぞ!! ウオオオオオオオオオ!!!」


 感極まって、教習所の目の前で叫んでいた。

 胸に期す思いを叫ばずにいられなかった。


「うっさい!!」


 バチッン!! という音と衝撃が頭に走った。


「アッタ~~~‥‥何するんだよ、ティーナ!」


 痛む頭を抑えながら振り返ると、そこには腕を組んで不機嫌そうな顔をした女―――ティーナ・ラフィがいた。


「こんな道のど真ん中で叫ばないでよ、恥ずかしいでしょ」

「わりぃわりぃ、ちょっとテンション上がっちまってさ」


 ティーナの言い分は最もだ。ここは大人しく謝っておくのがいい。


「もう、兄さんもティーナ落ち着いて。二人が大きな声上げたから周囲の人に注目されちゃってるよ」


 俺とティーナを注意するのは俺の弟―――ジャスティ・ゼファーだ。

 確かに周囲を見れば、俺達を注目している人たちがそこらにいる。


「うっ! あたしまでゼファーと同じに見られるとか屈辱だわ。ほらゼファー、早く行くわよ」

「お、おう!」


 俺はティーナに背を押され、建物に入っていく。


「ようこそ、ゴーレム教習所・イーストランド支部へ」


 受付の女性がにこやかに対応してくれる。


「すいません、あたし達ガルズ村から教習を受けに来ました。申し込みをお願いします」

「はい、ではこちらに必要事項を記入してください」

「はい。ほら、アンタ達も」


 俺とジャスティも受付の女性から用紙を受け取り、必要事項を記入する。


「えーと、これでいいのかな? どうですか?」


 とりあえず自分で分かる範囲は記入し、受付の女性に見せてみた。


「はい‥‥えっと、お名前はゼファー・プライドさん。年齢は16歳ですね。ご出身地はガルズ村。ご両親は‥‥はい。それで結構です。では最後にこちらに手をかざしてください」


 受け付けの女性は、俺の前に一つの水晶玉を持ってきた。


「ん、これは?」

「はい、ゴーレムの適性検査器です。これの色に応じて、自身に適性があるゴーレムが分かります」

「適性?」


 とりあえず、言われた通りにやってみることにした。

 手を水晶玉に乗せてみると、直ぐに色が変わりだした。


「赤色?」

「はい、もう結構です。ゼファー様は赤、火のゴーレムに適性があることが判明しました」

「オオ、マジか!?」


 うおおおお、嬉しい。

 何しろ俺の憧れの人と同じ適性だと言われたからだ。これで俺もあの人と同じゴーレムに乗れる。

 俺が歓喜に打ち震えていると、ドンッと押された。


「ほら、終わったんだから、さっさとどきなさい」

「おっ!? 何すんだよ、ティーナ!」

「次はあたしの番なの。それに、ジャスティだって待ってるんだから、場所変わりなさい。話なら後で聞いてあげるから」


 ティーナはうっとおしそうに手を振り、俺は席を開けた。


「さて‥‥‥‥青ね。はい、次はジャスティ」

「うん。‥‥‥‥黄色だ」

「では、ティーナ様は水、ジャスティ様は地のゴーレムの適性となります。これで所定の手続きは完了致しました。では、しばらくお待ちください」


 受け付けの女性は書類を持って奥に向かった。

 俺達は受付を離れ、椅子があったのでそこに腰かけた。


「ティーナは水、ジャスティは地、そして俺は火、それぞれ別々の適性か。ああ‥‥俺は火か。ああ、マジか。フフ‥‥」

「嬉しそうだね、兄さん」

「ま、仕方ないんじゃない。だって、あのチャンピオンと同じ属性だもんね」

「ああ。チャンピオン・レックスと同じ火の属性だ。コレはアレだな、俺が未来のチャンピオン、って言う事だな!」

「そんな訳ないでしょうが。全く、少しは落ち着きなさいよ。ほら、ジャスティもなんか言ってやんなさいよ」

「ムリだよ。僕は兄さんの弟だよ。兄さんがチャンピオンにどれだけ憧れているか、良く知っているもの。同じ属性というだけで一週間はテンションマックスだよ。きっと‥‥」


 そうだとも。何しろあのチャンピオン・レックスと同じ属性だ。

 憧れたチャンピオン、ゴーレムバトル最強の男、そんな人と同じ属性だ。コレで燃えなきゃ男じゃないぜ。

 ああ、早くゴーレムを乗りたいな。

 俺は落ち着きなく、あちこちウロウロしていた。すると、外が見えた。


「うわああああ!! おい、来てみろよティーナ、ジャスティ!」

「もう、なによ?」


 俺が手招きすると、ティーナとジャスティがやってくる。


「ほら、見ろよ!!」


 俺が指差す先を二人が見る。俺が指差す先には、多くのゴーレムの姿があった。


「凄いわね!」

「うん、ここまで多くのゴーレムなんて、早々見れないよね」

「だよな! いやあ、これ見れただけでも村から出た甲斐があったもんだ!」


 多くのゴーレムが動いている。

 二足歩行で動くゆっくりと動くゴーレム、一回り小さく素早く動くゴーレム、しなやかに動くゴーレム、そして‥‥背部に搭載されたスラスターを勢いよく噴射するゴーレム、多種多様なゴーレムの姿がそこにあった。


「うおおおお!! すげぇ!!」


 俺の人生でここまで多くのゴーレムを生で見たことはなかった。

 故郷のガルズ村は田舎でゴーレムなんて農作業に使われる地のゴーレムか街への移動用の風のゴーレムくらいしか見たことがない。

 しなやかな動作を行う水のゴーレムや高出力の火のゴーレムなんて見かけることがない。ましてや、田舎では火のゴーレムは燃費が悪いから敬遠された。

 初めて生で見る水と火のゴーレムの動きは俺に衝撃を与えた。‥‥その結果、背後から忍び寄る衝撃に気づかなかった。

 バシンッ、と強烈な衝撃が頭に走った。


「アッタタタ‥‥、一体何が?」


 思わず頭を抑えていると、腕を強引に引っ張られる。


「さっきから、何回読んでも返事しなかったアンタが悪いのよ。ほら、呼ばれたんだから急ぐわよ」

「はぁ、呼ばれたって何が?」

「アンタねぇ、さっき少し待ってろ、って言われたから待ってたんでしょうが! だから時間潰してたんでしょうが」


 ティーナに腕を引っ張られてどこかに連れて行かれる。



「ここよ」


 ティーナに引っ張られ、連れて行かれたのは『A』と書かれていた部屋の前だった。


「遅くなり申し訳ございません。ティーナ・ラフィです、ゼファー・プライドを連れてきました」


 ティーナが扉を開くと、そこにはジャスティと小柄な少年が椅子に座り、二人と向かい合いように壮年の男が立っていた。


「では席について下さい」

「はい。ほら、ゼファーも席について。アンタの席はそこよ」


 ティーナが指差したのは小柄な少年の後ろだった。

 俺は促されるまま、席に着いた。


「では、全員揃ったところで、全員の名前を確認する。ゼファー・プライド」

「は、はい!」

「ジャスティ・プライド」

「はい」

「ティーナ・ラフィ」

「はい」

「最後が‥‥‥‥ルシェイド・グリード」

「‥‥はい」

「うむ、私はバルデス・スタインだ。君達の指導教官を務める、今日より一週間の付き合いだが宜しくたのむ」


 指導教官か、バルデス教官と呼べばいいかな。

 見た感じ、バルデス教官は歳の頃は30くらいに見え、顔立ちは怖い印象は見えない。身長は俺よりも高そうだ、大体180くらいはありそうだな。体つきは作業着の上からでも筋肉が盛り上がっているのが分かる。

 そして、俺の前に座っているのが、ルシェイド・グリード。

 見たところ、身長はそれほど高くなさそうだ。座っている高さ的にティーナよりも低そうに見える。ということは歳は15かな。ゴーレム教習所に通える年齢は15からだし、15に成ってすぐに来たのかな。

 容姿は黒髪に整った顔立ち、服も高そうに見える。何処か良いところの子かな。


「本日よりゴーレム教習課程を行うが、まずは今後の予定について説明していく」


 バルデス教官は黒板に一週間の予定を書いていく。

 1日目-3日目 午前:座学、午後:実習

 4日目    全日:中間測定

 5日目-6日目 全日:実習

 7日目    卒業測定


「以上がこのコースの内容になる。4日目の中間測定もしくは7日目の卒業測定で不合格の場合は卒業不可とみなし、ライセンス取得はできない」

「え!? そうなった場合はライセンスは一生取れないのか!」

「いや、そうなった場合は追加講習を受けて再受験となる。まあ、余程の事がない限りは合格出来るだろう」

「なんだ、そうか」


 自慢じゃないが、俺は頭が良くない。村でも一番のバカと言われた程だ。村の学び舎でも、居残りテストの常連だった。だから、一発で合格出来るとは思っていなかった。何度でも受けれるなら何とかなるだろう。


「‥‥いや、無理よ」

「は? なんで?」

「‥‥‥‥お金、ないの、一週間分しか。だからもし、卒業不可になったら、帰れないわよ」


 ティーナは頭を抱えながら俺を見ている。ジャスティも可哀想なモノを見るような目で俺を見ている。

 お前ら、俺が出来ないと思っているな。‥‥‥‥うん、俺もそう思う。


「さて、では本日の座学から始める」


 バルデス教官が書いた予定を消して、座学の内容を黒板に書いていく。

 ええい、仕方がない。こうなったら、必死で覚えるしかない。

 必ず合格して、ゴーレムライダーになってやるぜ。

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ゴーレムライダー あさまえいじ @asama-eiji

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