第1話

 私、「佐奈」は「未来」と映画を見ていた。

 何事もない。そう信じ込んで、ぼーっとただ画面を眺めていた。

 エンディングの文字が揺れている。一瞬演出かな? なんて思ったが事が違う事はすぐにわかった。

 床が揺れている。それも関心を抱くほどに。

 突如として流れる島内放送。その内容は、「津波警報が出た」と言った物だった。

 私は、先程の揺れで怯えている未来を連れて島内で一番高い所に向かった。

 必死に走る。

 振り返る余裕なんてない。音で、物がすぐそばまできている事なんてわかる。

 喉が、ゼイゼイと音を鳴らし仕事をこなしている。血流も活発になり、全身に酸素を供給している。

 一心不乱に走る。

 未来の手を握っている手を握りしめ、走る。

 そして、やっとの思いで、避難所にたどり着いた。

「未来ちゃん佐奈ちゃん!」

 そう言ったのは、クラスメイトの「幸羽」。

「大丈夫だった? お父さんお母さん一緒?」

「え?」

「え? って何が? 一緒じゃないの?」

 父親と母親。今日出張から帰ってくる予定だった。今の時間、連絡船に乗っているはずだ。

 私は、心なく本島に続く海を見た。

 そこにあったのは、転覆する連絡船。おそらく母と父が乗っている船だ。あそこに乗っている。

「あそこ。あそこの船に乗っている」

 指さして、訴える。

 足が動く。母や父に会いたい。

「駄目! 今戻ったら。自殺と同じ」

 そう言って止めたのは「美雨」。

 泣きじゃくる私。幼い声をあげて、声をあげて泣く。

「佐奈ちゃん。大丈夫。私達が居る。両親の代わりにはならないかもだけど、ずっと居るから」

 そう言って、夜を迎えた。

 二日目。

「食べ物の配給があるってさ。僕が代わりに行ってくるね」

 そう言って。かけて行く。

 ここは公民館の駐車場。配給の場所は目の見える範囲内にある。

 彼女なら大丈夫だろう。

 私は、隣に寝ている未来の背中をさすりながら、自宅のある方を覗いた。

 水はすっかり引いて朝から、行方不明者の捜索をしているそうだ。

 今の所、その留置所には母や父はいなかった。

 何も無い、いや土砂が降り積もったその一帯を見つめて、心に描く物は無い。

 この世の物とは思えないような、濁流からはや数時間経った。

 意識の外で、地面が揺れた。

 メガホンを使い町民を落ち着かせる羽咲島の島長。

「余震」

 呟くのは幸羽。

「そういえば、幸羽は両親はどうしたの?」

 と問う私。

「え? うん。流された。釣りをしている所を一気に。さっき留置所にあった」

「ごめん。変なこと聞いた」

「あ、大丈夫だよ。佐奈たちがいればそれで大丈夫だから」

 気まずい空気の中に、美雨が帰ってきた。

「はい。これ今日の分のパン」

「ありがとう」

 受け取ったのは、片手に収まるほどの小さなパン。

「今日分って、これだけ?」

 幸羽が問う。

「そうみたい。なんだって。備蓄が少ないんだって。五日も持たないらしいよ」

「それって大丈夫なの?」

「わかんない」

 そんな会話を続ける。

「とにかく、できるだけ食べないようにすれば良いんだね」

 そう、言う私。

 二日目が始まった。

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