【5分間小説】君が隣にいるだけで
さい
もし君のSNSの知り合いが隣の席の人だったらどうするか?
俺は、リア充という人種が嫌いだ。どうやっても、あの空気に耐えられない。だから、俺はSNSに逃げた。
俺は、SNS上では『tada』というニックネームを使っている。本名が、『
スマホにメッセージが1つ来ていることに気づき、健一はメッセージを開く。
「今日も学校おつかれ様♪」メッセージには、そう書かれていた。
メッセージを送って来た人は、『
ただ、SNS上で知り合っただけだ。顔も本名も知らない。会ったこともない。
「お疲れ様です! いや〜。今日も疲れました〜。数学II難すぎw」と返信をする。
すると、すぐに「どこの単元やってますか?」と返信が返って来た。
「方程式です」
「え、ウチも同じ! ほんと難すぎ笑笑」とまたすぐに返信が返って来る。
でも、これだけはわかる。『crane』さんは、性別は女性。そして、同じ年であること。同じ静岡県に住んでいるということだ。
「あの......。もしよかったら、今度会いませんか?」と健一は、文字を打つが。すぐに消す。
いかんいかん。流石に、会うのはまずいよな......。でも、現実であって伝えたい。「好きです」と。
「はぁ〜」と健一は、大きなため息をつく。
俺は、顔も本名も知らないSNSの知り合いのことが、好きだ。趣味も合うし、相性がいい気がする。これが、彼女に恋に落ちた理由だろう。
決してどんな顔でも体型でも、多分好きではなくならないと思う自信がある。
***
「今日は、席替えをしようと思う」と担任の男の教師は言う。
周りは、席替えと聞いて騒ぎだす。何で、そんなに騒ぐのか意味がわからない。
席替えは基本くじの番号の席に移動すると言う感じで決める。
俺が引いたのは、『35』だった。窓側から、1.2.3......と並ぶようになっている。
そして、俺が引いた『35』は廊下側の1番後ろだった。
欲を言うと、窓側が良かったが後ろの席なだけ感謝をしなくては。
「お隣さん。よろしくお願いします」と話をかけて来た人は、
そして、かなり男たちから人気がある。本来なら、ラッキーだと思うが。
でも、彼女はリア充のため俺と生きてる世界が反対だ。そして、俺はリア充が大嫌いだ。だから、はっきり言って隣になってしまって残念だ。
「よ、よろしく......恵鶴さん」
「うん、よろしく」
誰にでも、笑顔で素敵だ。
機嫌を損なわないようにしよう。
***
その日の夜。俺は、いつものようにSNSを開きcraneさんにメッセージを送る。
「今日は、席替えをしたんだけど隣になった人がリア充だし、機嫌を損なわないようにしなきゃ💦」
「え!? ウチも席替えしたんだけど今日!! 隣の人は顔はそこそこいいし、嬉しい笑」
「craneさんと隣なら良かったのに......」
「ウチもtadaくんと隣になったら楽しそう笑」
「ほんとだよ〜」
ニコッとし元気が湧いて来る。craneさんに、会ってみたいな〜。
***
「おはよ! 多田くん!」と席に座っていると声をかけて来たのは、恵鶴さんだった。
「おはようございます。恵鶴さん......」
「何で敬語なの?」
恵鶴さんは、笑いを堪えているようだ。
「えっ、いや、別に......」
「あと、さん付けやめて。千聖でいいよ」
「恵......ち、千聖。わかりました」
あまり学校では、喋らない俺に朝からこんなに喋らなきゃいけないなんてレベルが高すぎる。
ましては、リア充と喋るなんて......。
「あぁあ! やっぱ。敬語は、ヤダなぁ。タメ口にして!」
だから、リア充は!! 注文が多いし! やっぱり無理だ。
「わかった」
「うんうん! そっちの方が多田くんぽくて好きだなぁ〜」先ほどまでの表情と変わり、なんか楽しそうだ。
「は、はは」と健一は、作り笑いをする。
しかし、「そういう、作り笑いやめて!!」とすぐに注意された。
「はい。わかりました」
***
2限は数学か。正直最悪だな。中学時代は数学をできた方だ。でも、高校に入ってから段々と数学ができなくなって嫌いになっていた。
「ねぇねぇ多田くん。数学の教科書忘れちゃったみたいなの。見せてくれない?」と千聖は声をかけて来た。
「わかった。じゃー、はい」
健一は千聖に、数学IIの教科書を見せる。
「ありがとありがと」と千聖は、体を健一の方に近づける。
「ん? どうしたの? そんなに嫌そうに離れて......」
無意識に、俺は千聖が近づくたびに段々と離れていたらしい。
「す、すみません......ちょっと、こういうの慣れたなくて......」
「まぁ、いいよ! 次は、そういうことしないでね!」
「は、はい......」
ほんと、リア充ってめんどくせぇ。
***
「ってことがあってさ......。リア充ってめんどくさいなぁww」
「そんなことないよ。多分その彼女は、なんか理由があって言ったんだよ😃」
「そうかな......」
「うん。ウチだって、今日隣の人に声かけたらtadaくんみたいな態度取られてさ。ちょっとやだだったもん😡」
「そうだね。明日謝ろ。その人に!🔥」
にしても、何をしても気が合うなぁ。craneさんと。
***
「昨日は、その......ごめん」と健一は千聖に謝る。
「何々? 昨日なんかされたっけ?」
「2限の数学の時......」
「あー。あれね! 別に気にしてないよー」
なんだよ! 心配して損した!!
「でも、その代わりに......明日一緒に買い物に付き合ってくれる?」
「ゑ?」
驚きすぎて、変な声が出てしまった。明日は、確かに土曜日で休みだ。
でも、俺があの千聖と買い物だと!? いやいや、聞き間違えだろ!
「聞いてた? いい? 明日一緒に買い物に付き合ってくれる?」
あー。やっぱ、聞き間違えじゃないのか!!
「わかったよ。行きます。行かせてください」
「ならよし! じゃー、LINE交換しとこ!」と千聖はスマホの画面を健一の方に向ける。
「え? なんで......?」
「なんでって、明日の予定を言うために決まってるでしょ?」と千聖は少し笑い気味に言う。
嘘だろ!! リア充とLINE交換だと!!
「わかったよ......」と健一はスマホを出してLINEを交換した。
はぁ〜。てか、これデートじゃないのか!?
***
家に帰ると、すぐに今持っている服を漁る。
「どの服がいいんだ!? どの服がいいんだよー!」
漁っても漁っても出てくるのは、パーカーだらけだ。
「こうなったら..... 」
健一はスマホを出しSNSを開き、craneに「明日隣の人と買い物行くことになってさ......。ファッションどうしよう??」と送信する。
「え!? 明日ウチも、隣の席の人と買い物行くんだけど笑。ウチ的には、ファッションなんて気にしないかなぁ〜笑。それより、最近隣の席の人のことが好きな気がして来たからLINEも交換したし、明日の買い物楽しみ〜笑笑」
「ほんと、色々と偶然が重なるねww。お互い楽しもう!!」
ファッションは、気にしないのかなぁ。まぁ、その言葉を信じてみよう。
ん? 一件のLINEの通知が来ている。俺的には、一日一つくれば嬉しいくらいだから、本当に嬉しい。頼む、公式からではありませんように!! と願いながら、LINEを開くと千聖からだった。
「明日楽しみだね♪ウチは楽しみすぎて今日寝れなそう」
ん? 何か違和感がある......。
すると、すぐに先ほど来たメッセージは削除されすぐにもう一度メッセージが来る。
「明日楽しみだね。楽しみすぎて寝れない」
先ほど来たメッセージがなんて書かれていたか覚えていないため、何が変わったか分からない。
「そうだね。明日は、駅の入り口で合ってるよね?」
「うんうん。合ってるよ! 覚えてくれてるね! よろし!」
おいおい。俺の記憶力舐めすぎだろ!! まぁ。不安だったけど。
***
昨日は、緊張し過ぎて全然寝れなかった。だって、リア充という人種とのデートだ。はっきり言って行きたくなかった。
「おはよう。多田くん!」
「おはよう! 千聖」
なっ! 私服可愛過ぎだろ!! これが、リア充の力かッ!!
「ごめん。千聖ほどのいい服が無くて......」
「全然似合ってるよ!! うん! いいね! 行くか」
時刻は、午前9時だ。何をするために、一緒に買い物するのかさっぱりわからない。教えてもくれない。まぁ、いいか。
「どう? この服似合う?」と千聖は、緑のドレーに白いワンピースを試着し健一に、感想を求める。
「めちゃくちゃ似合います。ホントに」
「あ、ありがとね」
千聖は、服を買いそのまま着ている。
でも、これが本命の目的ではないらしい。
「多田くんは何処か行きたいところある?」
「俺はなぁー、本屋かな?」
「本屋さん?」
いやいや、千聖との買い物に本屋はまずいか......。
「ご、ごめん。冗談だよ!」
「いいよいいよ。無理しなくて、多田くん本読むの好きだもんね。いっつも学校で本読んでるし」
読んでる本が、ラノベだなんて言えない!!
「何か、オススメな本ってないかな?」
「うーん」と健一は、悩んでいるフリをする。
やばいやばい。どーしよう......。まぁ、正直に言うしかないか......。
「ラノベです......」
「ラノベ!?」
「は、はい......」
やはり、ラノベはまずかったか?
「実は、私もラノベ好きなのよ!」
「え?」
「何々! 多田くんは、何が好き?」
「俺はだなぁ、やっぱ異世界系だな......じゃなくて、千聖ってラノベ好きなの!?」と健一は、驚く。
周りは、ヒソヒソと話しながらこっちを見ている。
コホンと、一旦咳をして落ち着く。
「私も、私も異世界系が好きなの!!」
何か、趣味があってcraneさんのようだ。
こうして、本屋でラノベを買い昼ごはんを食べに、千聖おすすめのステーキ屋さんに向かう。
かなり、高級感のある店だ。大丈夫かこれ?
「どうして、ここのステーキ屋さんに来たんだよ?」
「それはね、今日一緒に来た理由でもあるんだけど、これ!」
千聖の指の差した所には、『カップル割り』と書かれた一枚のチラシがあった。
「もしかして......」
「そうよ。ここは、高いお店なんだけどね。カップル割ってのがあってそれでね......」
「わかったよ」
千聖の頬は、かなり赤くなっていた。
***
「今日も疲れたぁ〜まじで、リア充といると疲れる」
「お疲れ♪」
「こちらこそ! 今日どうだった?」
「色々と楽しかった♪そっちは?」
「もう疲れたよ。カップル割りとかさ」
「ウチも、それ使った! ステーキ屋で!」
「え!? 何処の?」
そのステーキ屋は、俺と千聖が行ったところだった。
こんなにも、偶然が続くはずがない。いや、何か違和感を感じる。
「もしかして、その付き添いの人ラノベ好き?」と攻めた質問をする。
「何でわかった!? 笑。そーだよー」
やはりだ。
「その人と今日。洋服屋に行った?」
「えー! すごい! 何でわかるの!?」
健一は、確信する。craneは、恵鶴 千聖であるということに。
***
次の日の放課後。
天気は、今にも雨が降りそうだ。
「じゃーね! 多田くん!」と千聖は、カバンを握る。
「ちょっと待ってくれ!」と健一は、それを止める。
「どうしたの?」
「伝えたいことがあるんだ」
ほんとは、朝言おうと思ったたがなかなか言えず今に至る。
「何々?」
「あのさ......」と健一は、スマホ画面を見せる。
そこに写してあったのは、craneさんとの毎日のメッセージだった。
「それが、どうしたの?」
「千聖。お前が、craneだったのか」
「そうだよ。SNSとキャラが違くて驚いたでしょ」と千聖は言って走って教室を、後にする。
「待てよ!」と健一は、それを追いかける。
外を出ると、かなり強い雨が降っている。
「くそ!」
健一は、上靴のまま千聖を追いかける。
「待てよ!」ととにかく大きな声で、千聖を止めようとするが止まってくれない。
これだから、リア充はよ!! すぐに、こういう空気を作る。
くそ! 俺は、リア充が嫌いだ。嫌いだ。大嫌いだ!!
「はぁはぁ」と千聖は、息を切らしたらしく膝に手をつく。
「やっと追いついたはぁはぁ。ここじゃ、風邪ひくし。家近いからうちに来い」
***
「気分は、落ち着いたか......」と健一は、千聖にホットコーヒを渡す。
何を渡せばいいか分からない。まぁ、勝手な偏見だがリア充はコーヒを飲んでそうだから、ホットコーヒーを渡した。
「で、何で逃げたんだよ?」
「多田くんに嫌われたくなかったから」
「別に、嫌ったりしない」
「私ねリア充ってことに自覚してるの。でも、リア充として生きると自分というものを出せなくてね。そんなある日に、SNSに出会って。そこで、自分を出してた。そんなある日に、tadaって言う一つのアカウントに出会ったの。どんな話題をしても偶然同じ日に同じことが起きてて自分を出せて楽しかった。そして、席替えをしたあたりから多田くんとtadaが似てて。多田くんといる時だけ自分を出してる気がしたの......。気づいたら、多田くんが好きになってて。でも、やっぱこっちの私じゃダメなんだよね......」と泣き出す。
「何がだよ! 俺だって、現実世界とSNSじゃキャラが違うんだよ!!」と健一は怒り言う。
俺は、何処かで勘違いをしていたのかもしれない。リア充とは決して悪い奴らだけではないと。
そして、メッセージでは伝えられなかった「今度会いませんか?」を今なら言える気がする。
「千聖。今度、craneとしてまた会ってくれないか? 伝えたいことがあるんだ」
千聖は、首を縦に振る。
***
「お待たせ。craneさん」
「遅い! tadaくん!」
「ごめんよ!」
「それで、伝えたいことって?」
「君が好きだ!! craneいや、千聖!」
千聖は、頬から涙が垂れる。
「だから、付き合ってください」
「はい」と千聖は、笑顔で返事をする。
きっと、SNSがあったから今の自分がいる。きっと。craneと千聖が居たから今の自分がいる。
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