24.掲げていたはずの意志
シキ達に敗北した盗賊団は、岩盤に囲まれた魔術雑貨屋の前に集められていた。
両手と両足をエリーゼの氷で拘束され、盗賊団は誰一人として身動きを取る事は出来ない状態だ。
「全く、ウチを襲うとは命知らずもいいところだねぇ」
「そうだ。お前達が何故この店を襲った? お宝が欲しいなら例の魔道具、
「それもどうかと思うがねぇ」
盗賊団に詰め寄るシキとエランダ。エランダはシキの身勝手な行動にツッコミを入れつつ、ひとまずは彼らの話を伺う事にした。
両手足の氷を壊せないと判断した盗賊の一味は、無理やり諦めを付けたように口を鋭くし言葉を放った。
「アネさんが言ったんだ。この店のお宝は首飾りなんかじゃねぇ。もっと凄い物がここには眠っていると」
「凄い物?」
副団長として意地か、ストウムが団の責任を持って話を始める。
「大量のエーテルをため込んだ宝石が、エーテルコアと呼ばれる代物がこの店には必ず隠されてある。それを取って来いと、アネさんは俺らに命令した」
「エーテル……コア……!!」
盗賊の言葉にシキは息を飲んだ。だがそれ以上に、今まで話を聞いてきただけだったエリーゼが口を挟んできた。
「そんなもの、生まれてから今の今まで見た事も触れた事もありません。そもそも、それだけのものがあるなら、私だって気づきます。その情報はデマである可能性はないのでしょうか」
「アネさんが適当言ってるってのか!?」
「そうではなく! その情報の出どころははっきりしているのかと、そう聞いているのです!!」
一触即発な空気に、蚊帳の外でただ見ているだけだった少女が割って入って来た。
「アネさんは確実な情報筋を持っていると言ってたッス……。はっ!! 情報を持って来た時はいつも、どこかに姿を消した後ばかりだったッス!!」
氷の檻で覆われたミルカは、デブ猫チャタローを強く抱き締めると、あの洞窟での一件を思い出し震えながら持ち合わせた情報を共有した。
「姿を消した時……。つまり、あの紫の炎から情報を得ていたというのか!?」
シキが、ミルカが、エリーゼが。あの時の恐怖を思い出し身震いした。
得体の知れない敵と、そんな奴らに裏で操られていた盗賊団。
そして今、この場にいない一人の事へ話題は移った。
「おいお前達、アネッサはどうした!? てっきり全員で襲い掛かったのかと思っていたが、彼女がいないではないか!!」
不意の一言に思わずエリーゼとエランダは辺りを見渡した。もしかすると、未だに隠れて様子を伺っているかもしれないと感じたからだ。
しかし、予想に反してアネッサの姿はどこにも見当たらなかった。
シキの怒号を聞いたストウムは鼻息を荒くし、崇拝する団長のために反論をした。
「アネさんはお宝を手に入れた後の準備を進めるってんで一人別行動だ。てめぇら相手になんざ、俺らだけで十分だって信じてくれてたのに。なのに俺達は……くそっ!!」
ストウムは奥歯を噛み締め、己の敗北を悔いていた。
しかし。だとしても。拭いきれない違和感がそこにはあった。
それが何か。シキは考える。
自身が盗賊団に入団してからの出来事を思い出す。
彼ら盗賊団の目的は何だったか。
「ストウム、お前達盗賊団の目的はなんだ?」
「あぁ? んなもん決まっている。お前達の身柄とこの店に眠る宝石だ」
「そうではない! お前達『ノース・ウィンド』の存在する目的は何だと問いただしているのだ!!」
「なっ、そんなの聞かれるまでもねぇ。戦争で困っている奴らを助けるためにアネさんが立ち上げた盗賊団。それこそが俺達『ノース・ウィンド』だ!! そんなアネさんの信念に賛同した奴らがこうやって集まって、盗賊団として大きくなったってもんさ」
ストウムの熱の入った解説に、盗賊団の団員達はそれぞれ感情を揺り動かされる。
「ああそうさ、俺達はアネさんのために戦っているんだ! こんなところで邪魔されてる場合じゃないんだよ!!」
「そうだ、アネさんが待っているんだ。俺達にはやらなきゃならない理由があるんだよ、だからさっさと開放してくれよ!!」
そうだ、そうだ。と拘束された盗賊団の一味は声を揃えて抗議の言葉を並べた。
揃いに揃った彼らの言葉は、疑いもなくアネッサを信仰してのものに他ならなかったのだ。
だからこそシキは呆れ、怒り、騒ぎたてる彼らへと声を上げた。
「ただの魔術雑貨屋を襲う!! それが本当にアネッサの掲げた盗賊団のあるべき姿だと言うのかお前達は!!」
「な、なにぃ……!?」
「町外れにある、それこそ関所やお前達のせいで客足も遠のいているこの店のどこに、襲うべき理由などあった? 戦争やそれにまつわる者どものせいで苦しむこの店のどこに、そんなものがあったのだ? 答えられる奴はここにいるか。いるなら出て来るがいい!! 拘束など解いてもう一度拳を合わせようではないか……!!」
…………。
激昂するシキの問いに、答えられる者はいなかった。
「畜生。俺らの戦いは何だったんだよ。畜生、畜生ッ!!」
ストウムは混乱しながら氷で拘束された拳を地面に叩きつける。
どうしてそこまで混乱してしまうのか。なぜなら、シキの言った発言の一つ一つが、紛う事なき正論だったからだ。
信じていた目的と信じていた頭首の食い違いに、盗賊団の者達はぶつけようのない困惑を抱き崩れ落ちる。
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