300 リンとキラボシ②

 一階と二階は各部隊の部屋と食堂、そして三階には隊長室と会議室があり、そこに医務室もあるとススタケは説明した。

 三階には灯りがあった。人の話し声が聞こえてくる右奥の部屋は会議室らしかった。シジマはまだいるのだろうか。

 ススタケは左手に曲がり、突き当たりの灯りがもれる部屋を指した。


「あそこが医務室だ」


 ヨワは逸る気持ちを抑えてまずはそっと中をうかがってみた。医務室の引き戸は半分ほど開いていた。

 机の前に二脚のイスがあり、それぞれに男性と女性が向かい合わせで座っていた。ひとりはリンだ。採血をしたのか、袖をまくり上げ軽く腕を押さえてにこやかに女性と談笑している。具合が悪そうには見えず、ヨワはひとまず胸をなで下ろした。

 女性は白衣をまとった医師風の格好だった。昨夜、夢うつつに聞いた城つきの治癒魔法使いキラボシ・レッドベアだとヨワは思い当たった。彼女はリンと同い年くらいに見えた。真珠のバレッタできっちりと留めた髪先を肩に流して、貝がらのイヤリングが笑う度可憐に揺れる。黒に近い紫の髪にそれらの装飾はよく際立っている。ヨワから見ても美しく、とても女性らしい人だった。


「ヨワ、入らないのか?」


 ススタケの声に答えられず、ヨワは引き戸に背を張りつけて動けなくなった。


「あなたの血は調べれば調べるほど素晴らしいわ。竜鱗病に留まらず、治癒魔法界に大きな進歩をもたらすはずよ」

「そう言ってもらえると俺もうれしいよ」


 リンとキラボシの会話はいたって普通だった。互いに口調が砕けているが、歳の近さを思えばおかしいことではない。それに生傷の絶えない騎士であるリンは、ヨワよりはるか以前からキラボシと親交があって当然だった。

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