276 クリスタル奪還!①

 入り口に見張りがひとり立っていた。ひと晩中立たされていたことを欠伸混じりにぼやいている。リンは静かに切り抜けられないかと考え、足元の小石を拾った。見張りが再び欠伸をした瞬間を狙って洞窟の中へ石を投げた。


「お。交代か?」


 物音に気づいた見張りが洞窟を覗き込んだ隙を突いてリンは飛び出した。盗賊の口を押さえのど元を裂く。糸が切れた人形のように脱力する体を横たえて、洞窟内からこちらに気づいた物音がしないのを確かめてからエンジ、ロハ先生、シジマを呼び寄せた。


「よし、作戦通りにいく。リン、ロハ先生を頼んだぞ」

「ああ。父さんもエンジも気をつけて」


 リンは父を見上げてしかとうなずき、エンジと拳を合わせ、洞窟の奥に入っていくふたりを送り出した。昨晩の内に洞窟の形状を熟知しているロハ先生を中心に立てた作戦があった。

 洞窟内は狭い。大剣と長剣の魔剣使いであるシジマとエンジは特に戦闘となった場合不利だった。そこでふたりがおとりとなり広い場所に盗賊団を誘い出すことにした。その間リンはロハ先生とともに入り口付近にあるくぼみに隠れてやり過ごし、クリスタルを手に入れて下山する。

 この作戦の肝はボスのカブトも誘い出せるかどうかだ。エンジとシジマが上手く挑発してくれることを信じるしかない。山小屋で見つけた麻袋を抱えるロハ先生を先にくぼみに押し込み、リンも息を殺して身を潜めた。

 しばらくして洞窟の奥から悲鳴と物々しい話し声が聞こえてきた。エンジや盗賊たちの声は内容まで聞き取れないが、地声の大きいシジマの声だけはリンとロハ先生の元にもはっきりと届いた。


「カブトなんて名前かっこいいと思ってるのお? てかクサ。お前らマジでクサいわ。ここドブの臭いがする。風呂にも入らねえなんて母ちゃんが泣くぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る