270 潜むモノ③

「いや。国がそんな状況なら仕方ないが……クリスタル……くそ!」


 突然ひざを叩き、大きく項垂れて悪態をついたダゲンにロハ先生が身を乗り出した。


「なんだ。クリスタルがどうかしたのか!」

「やつらに、盗賊たちにクリスタルの場所を知られたんだ!」


 その場にいる全員が息を呑んだ。ダゲンは興奮した様子で口早に盗賊がやって来た時のことを話し出した。


「あいつら一週間ほど前に現れたんだ。あっという間にこの山小屋を占拠して俺に料理を作らせ、ここを拠点にどうもコリコ国を探っていたようだった。次の“仕事場”だとかなんとか言っていた。だがその内にクリスタルの洞窟を見つけて、やつらは俺を縛ってそっちに向かったんだ!」

「それはいつの話ですか!」リンはダゲンの肩を掴んだ。

「昨日の朝だ」

「すぐに行かないと」


 立ち上がったリンを「でも」と引き止めたのはユカシイだった。


「洞窟の入り口は崖っぷちよ。夜にあそこを通るなんて無理だわ。リンもわかってるでしょ」

「承知の上だ。急がないとやつらに全部奪われるんだぞ!」


 リンは最後の言葉をシジマに向けて訴えかけた。しかしシジマは微動だにしない。なにかを見出そうとしているかのように一点をにらみつけていた。


「ダメだよ、リン。夜にクリスタルの洞窟に行くことはできない」


 おだやかにロハ先生にたしなめられてリンはショックだった。クリスタル研究の第一人者として長い年月をクリスタルに費やしてきた先生こそリンの焦燥を誰よりも理解していると思っていた。

 リンはすかさず口を開こうとした。だがロハ先生の握った拳が震えていることに気づいた。横顔は見たこともないほど険しく、沈痛を湛えていた。


「山男としても先生に一票だ。盗賊とやり合う以前の問題だぜ」

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