259 ヨワの覚悟④

「話は聞いているな?」


 ススタケが問うと各々うなずきが返ってくる。しかしミギリだけはうつむいていた。


「頼んだぞ」


 ミギリの肩に手をかけてススタケが念を押すと義父は小さく「わかっている」と答えた。


「私たちは先に出発します」


 リン、エンジ、クチバに道案内役のユカシイとクリスタルに詳しいロハ先生も加えた部隊をシジマが率いる。スサビはひとり彼らに焦燥の眼差しを向けていた。


「父さん! あの、僕も連れていってほしい」


 シジマは足を止めたが振り向きはしなかった。


「お前は迷っているだろ、今も。ジャノメと対峙したお前ははなにもかもクチバより一歩遅れていた。急を要する今、お前のような半端者は連れていけない」


 そのままシジマは息子を一瞥いちべつすることもなく隊に号令をかけた。伯父と伯母が順々にはしごの上へシジマ隊を送り出す中、ふとリンはヨワを見て駆け戻ってきた。


「クリスタルを持ってすぐ戻ってくるからな。少しの辛抱だ」


 うん、と応えたとたん額を指先で弾かれた。


「なんだよその顔。俺のこと信じられないか?」


 にやりと笑ってわざとらしく顔を覗き込んでくる。これもリンなりのやさしさだった。ヨワは思いきり首を振って不安を散らした。だが言葉が出てこない。

 肌の鱗を見た者が態度を急変させる瞬間を何度目の当たりにしてきただろう。家族の繋がりさえ不確かな世界だ。ミギリに勘当されたあの日の光景が、ソヒ王子の蔑む眼差しが、脳裏によみがえってくる。

 それでもいい。また傷つけられても構わない。これは諦めではなく覚悟だ。この恋路の先がどんなに期待外れだったとしても、リンを愛し彼の幸福を願いつづける。


「信じてるよ、リン」


 彼の目を見つめ、震える手で一度だけ頬をなでた。

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