257 ヨワの覚悟②

「だがヨワ、クリスタルを止めたら今度はコリコの樹ごと国が沈むんだぞ」


 指摘するススタケを見上げてヨワはにっこり微笑んだ。


「私たち浮遊の魔法使いがクリスタルの代わりになる」


 周囲にどよめきが走った。すかさず大口を開けてなにか言おうとしたススタケにヨワは「最後まで聞いて」と先制した。


「長くはもたないと思う。だから避難は進めておいてほしい。その間にクリスタルの自己修復が終わればいいんだけど」

「ダメだ。今、そんな不確かな話をしている場合じゃないんだ。ヨワは下がっていなさい」


 ゆるやかに、しかしはっきりとヨワを遠ざけるススタケの思いを察して、ヨワは下がらせようとする彼の腕を掴んだ。


「違うの。そっちは予備。本命はカカペト山のクリスタルだよ。ユカシイが道を知ってる」

「僕は?」とロハ先生。

「先生は迷子常習犯ですよね」ヨワはバッサリ切り捨てた。「馬を駆れば一日で戻ってこられる。最低でも一日耐えればいい!」

「一日ならば耐えてみせますわ」


 そう言ってヨワに加勢したのはシトネだった。そっと娘の肩を抱いてともにススタケを見上げる。


「ホワイトピジョンではなく、浮遊の魔法使いの名にかけて」


 そうだ。家名を失ったからといって何も残らないわけじゃない。


「私は浮遊の魔法使いヨワなの。ススタケ殿下」


 ススタケは目を覆いうつむいてしばし沈黙した。

 その間にも揺れは絶えずつづいている。クリスタルの青い光はまるで際限がない。明滅をくり返すごとに鈍い輝きはどんどん強くなっていく。かすかに隙間風のような音が聞こえ出した。これが高濃度の魔力が流れる音なのだろうか。遺伝子の奥底に眠る防衛本能を掻き立てられる。

 突如パキンと木の割れるような鋭い音がした。その直後ススタケは顔を上げた。

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