255 クリスタルの暴走③

 前にも後ろにも進めないと思い知り誰もが口を閉ざした隙を突いてジャノメが笑い出した。


「国を捨てるか、心中するしかないな!」


 シジマはエンジとクチバにジャノメを連れていくよう指示した。もう彼とは二度と会う機会はないだろう。そう思うとヨワはずっと抱いていた疑問を押さえられずエンジとクチバを引き止めてジャノメと対峙した。


「どうしてですか。この国にはあなたの息子であるユンデもいるのに。あの子は希望も夢も持って十年先のことまで見ていた。なのに父親であるあなたがどうして子どもの未来を奪うんですか! ユンデを愛していないんですか!」

「愛している。だからこそ絶望を理解する前に終わらせてやったんだ。この苦しみをあの子にまで味わわせるのは忍びない」


 うつむく拍子にガラス玉に差し込んだ光が、ジャノメのユンデに対する愛のように見えた。


「私はきみにこそ問いたい。ホワイトピジョンの名を取り上げられた“ただのヨワ”くん。この国に、人々に、こだわる理由がどこにある?」


 体面のために存在を否定された者。ジャノメと自分は似ていると自覚していただけに、その問いかけはヨワの芯を突いて揺さぶった。


「うるせえ。生意気にヨワに話しかけてんじゃねえぞ」


 動揺に震えた指を掴んでススタケに引き寄せられた。肩を抱いていつになく体を密着させてくるススタケに戸惑うヨワには構わず、彼は鋭い目でジャノメをにらみつけている。


「俺の姿でヨワを手にかけたこと一生許さねえ。これはお前と俺たち王族の間にある確執とは別問題だ。覚えとけ」


 きょとんと首をかしげたジャノメを連れていけとススタケはあごで指示した。エンジとクチバに両脇を抱えられていくジャノメは「ああそうか。そうなのか」とつぶやきを残していった。

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