244 ヨワとユカシイ②

 豊穣祭は春のコリコ祭りと比べると少し地味だ。国のあちこちにぽとぽと落ちてくるコリコの実を集めてクッキーを焼く。それを近所やお世話になっている人に配ったり、若者だと好きな人にあげたりするのが主なイベントだ。

 クッキーが主流だが、贈るお菓子はコリコの実を使っていればどんなものでもいいと言われ、豊穣祭は毎年国中から甘いにおいがふわふわ漂う。

 そうして夜になったらもらったお菓子や自家製のクッキーを持ち寄り、月明かりに照らされるコリコの樹を見ながら食べるのだ。コリコの樹と自然の恵みに感謝する祭事だが、若者の間で想い人にお菓子を贈るイベントが派生したのは夜のロマンチックな雰囲気が助長させたのかもしれない。

 近年では異性だけでなく友だち同士でお菓子を贈り合って友情を深めるようにもなっていた。そんな世間の流れができる前からユカシイが作ったクッキーはヨワの胃袋に収まると決まっている。コリコ祭りで都合が合わなくても、夏の炎天下にヨワを引きずり出せなくとも、ロハ先生の論文の手伝いでどんなに忙しそうにしていても、ユカシイは豊穣祭だけは欠かしたことがなかった。


「待ってたわよヨワちゃんユカちゃん! それにリンもね。コリコの実はたくさん集めたわよ。さっそく作りましょ!」


 ユカシイとヨワはオシャマにうながされてキッチンに入り、リンは素振りをしに外へ出ていった。

 コリコクッキー作りはまず実を水に入れるところからはじまる。水に浮く実は古くなっている証だから取り除いてしまう。次に軽くゆでて殺虫し、からを剥きやすくする。からはハンマーで叩いて割り、薄皮まできれいに取る。そしてアクを抜く。わらの灰を加えて苦味がなくなるまでじっくり煮る。最後にすり鉢とすりこぎ棒で粉になるまで砕いたら下ごしらえは完了だ。

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