243 ヨワとユカシイ①
ところがスオウ王は泰然としたまま口を開いた。
「それは瞬時にかけられるのか」
ユカシイは言葉を失った。魅了の魔法は集中から発動まで数秒かかる。さらに特定の対象にかけるには対象と目を合わせる必要があった。そうでなければ魔法の効果は無闇に広がってジャノメだけでなく、近くの動物にも影響してしまう。それではかえってジャノメに逃走の隙を与える恐れがある。
確実性を求められる今回の計画に自分は役不足だと気づいた。
「ユカシイさん。あなたはヨワさんに最も近しい人です。だからこそ彼女のそばで普段通りに過ごすこと。それがあなたにしかできない重要な役目です」
ススドイ大臣に諭されてもユカシイの気持ちは収まらなかった。
「そんなのなんにもしないのといっしょだわ! 先輩が命を狙われるかもしれないって時に、あたしだけまたなんにもできないのはもう嫌なのよ……!」
「心を鎮めろ。でないとお前をヨワから離さなければならん」とスオウ王は厳しく言った。「ジャノメにバレるくらいならそのほうがよかろう」
そこまで言われるとユカシイは大人しく引き下がる他なかった。
コリコがその実に生命エネルギーを集中し衰弱する今の季節は、昼夜問わずホワイトピジョン家の者がクリスタルの間にひとり常駐することになっている。ヨワは午後からシトネとその番を交代する予定だ。ヨワがユカシイと豊穣祭を楽しめるのはただでさえ午前中しか許されない。ましてやジャノメがいつ接触してくるかわからない状況だ。
ユカシイが急いでヨワを追いかけると、彼女と護衛の騎士はリフト前で待っていた。リフトで根っこ道に下りてフラココに乗り換え、三人は西区のシジマ家に向かった。オシャマが豊穣祭はいっしょにコリコクッキーを作りましょうと誘ってくれたのだ。
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