241 おとり作戦②

 ここにいないクチバとスサビは夜の内にススタケの手引きによってすでにクリスタルの間への通路で待機しているという。通路は狭いため刀身の短い双剣を扱うクチバと小刀を扱うスサビが選ばれたということだった。


「計画は単純だがチャンスは一度きりしかない。ジャノメ・ヴィオレフロッグの手に絶縁錠ぜつえんじょうをかけるまで気を抜くな。よいな!」


 魔力の流れを遮断し魔法を封じる鉱物・雲母きららで作られた手錠を掲げてスオウ王は面々に奮起をうながした。ところが、

「いやだ!」とススタケが威勢よく拒んだ。


「この期に及んでまだ駄々をこねるか。いい加減にしろ」


 ススドイ大臣の底冷えするような怒気に対しススタケは冷笑を返した。


「こんな計画、何度説明されたって理解できねえよ。一番危険なのはおとりにされるヨワだぞ! しかも相手は一度ヨワを殺そうとした奴の仲間だ。ジャノメはヨワを手にかけることにためらいなんか見せないかもしれない。そんな危険な奴の前にヨワを差し出せるか。ヨワは俺の娘だぞ!」

「いいの、ススタケさん。私がやる」

「ほら! ヨワだってこんなに怯えて――え?」


 振り向いたススタケをまっすぐに見つめてヨワは拳を握った。

 直前に計画内容を話したのはヨワがシオサイことジャノメの前で自然に振る舞えるように配慮したことともうひとつ、ヨワに迷う時間を与えないためだと思われた。

 好都合だ。確かに自分はもうあとがないところまで追い詰められなければこんな大胆な踏み切りはできない。


「私も、私がおとりになるのが一番確実な方法だと思っていました。覚悟はできています」

「待て待て待て。無理するなって、ヨワ。方法なんていくらでもあるんだよ。シジマがヨワに変装するとか」

「無茶言わないでください」シジマは冷静に返した。

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