第8章 豊穣祭

240 おとり作戦①

 豊穣祭の当日、ヨワはコリコの樹を通じてスオウ王から呼び出された。植物から話しかけられる感覚にはまだ慣れない。樹齢数千年の巨樹ともなればヨワの魔力に干渉することも得意なようで、何度勘違いしてリンをうるさいとののしったことか知れない。

 今朝も不当に叱ってしまったリンを連れて、途中でユカシイを拾い登城した。はじめて通された王の私室にはすでにスオウ王とススドイ大臣、ススタケの三兄弟に、騎士のシジマとエンジ、そしてロハ先生までもがそろっていた。ヨワはわけ知り顔のロハ先生に歩み寄った。


「ロハ先生……」

「今回の件でもっとも重要なのはあなたです、ヨワさん。あなたを理解し、味方をしてくれる人物が必要だと思いトゥイグ教授にもジャノメの企てを話しました」


 ススドイ大臣の言葉が意識しないようにしていた緊張を揺さぶり起こした。ヨワは改めて集まった人々の顔を見て、ここにいる全員が自分を中心に動いているのだと実感した。


「ヨワ。僕じゃ頼りないと思うけど、ここに来たのは僕の意思だ。鉱物学者として、きみの先生として、できる限りのことをしたい。みんなにもそれぞれの思いがある。きみだけが気負うことはないよ」


 肩を叩きそう励ましてくれたロハ先生にヨワはしかとうなずいて応えた。

 ススドイ大臣はみんなを執務机の周りに集まらせて、ジャノメ捕縛計画の内容をスオウ王自らが説明した。


「単刀直入に言うぞ。ヨワ、お前にはおとりになってもらう。ジャノメ・ヴィオレフロッグをクリスタルの間の前まで誘導するんだ。奴の狙いがクリスタルなら向こうからそこに行きたいと言い出してくるだろう。お前は素直に応じればいい。奴が封印の扉まで来たらシジマ、エンジ、リンが退路を塞ぎ、前もって潜伏しているクチバとスサビで挟み撃ちにして捕らえるのだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る