198 あなたがそう言ってくれるなら②

「気にしてないわけじゃない。だってヨワはそれで悩んで苦しんでるんだからさ。ただ俺は病と戦うヨワをかっこ悪いなんて思わない」


 思いがけない言葉にヨワの足が止まった。


「騎士は傷を名誉の勲章って言うんだ。宴会になると必ず傷跡の自慢大会がはじまってさあ」


 横を見たリンはヨワがついてきてないことに気づき、振り返ってばつが悪そうに首裏を掻いた。


「悪い。たとえがよくなかったか?」

「ううん。リンがそう思ってくれるなら私は十分」


 その時海を渡ってきた砂混じりの突風が坂の下から駆け抜けてきて、ヨワのフードを吹き飛ばした。とっさに顔をかばった手を掴まれて驚き見ると、風から守るようにリンが目の前に立っていた。


「あのさ、ヨワのそれって本当にただの皮ふ病だよな?」


 話の要領が掴めない。ヨワは首をかしげた。


「えっと。いつか本当の竜になって飛んでいくとか。ほら、ヨワの魔法は浮遊だし」


 ヨワはしばしぽかんとした。

 鱗のような湿疹が出るから竜鱗病と名づけた人は言われてみれば少々雅な人だ。その理由なら魚鱗でも蛇鱗でも支障はなかっただろうに、かつて天と地を支配したとされる生命の王の名は仰々しいではないか。人にも伝染せず、かゆくて醜いというだけで死にはしない。病にしてはその恐ろしさなど外壁に張りつくトカゲ並みだ。

 リンの手は今にもこの風に乗って飛んでいかないかと心配しているように見えてきて、ヨワは体を折って笑った。おかしくて堪らない。その様子を見て自分の考えが突拍子もないものだと気づいたか、リンは慌てて手を離した。


「そんなに笑うなよ!」

「ごめんて。リンの発想、嫌いじゃないよ。鱗がちょっとかっこよく見えてきたかも」


 パーカーの袖をまくって鱗をなでた。触るとかゆみがうずき出す。これさえなければもう少し気楽につき合っていけただろう。見る分には確かにおもしろい現象だ。

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