192 砂浜遊び⑤

「でも、でもヨワはデートって言った」


 楽しいビーチボールにおいしいごはん。リンの助言通り頭をからにして楽しんでいたが、さすがに思考を捨て過ぎていたようだ。ヨワはすっかり自分で言ったことを忘れていた。


「ごめんごめん。じゃあ戻ってきたらふたりで砂遊びしようか」

「僕もお散歩がいい。僕とヨワだけ」


 ユンデはうつむきがちだったがリンを意識していることはあきらかだった。同世代のユンデも小さなユンデもその心は本当に変わらないのだ。


「わかった。約束する」


 ふたりのユンデを区別し扱っていたことに気づいた。その戸惑いをにじませながらもヨワは真剣にうなずいた。

 立ち上がった時、ウララの心配げな顔が映った。


「ちょっと変だったかな」


 港町の漁港を目指しながらヨワはぽつりとつぶやいた。


「そう思ってもウララさんは口にするタイプじゃなさそうだし、母さんは細かいこと気にしない。スサビは自分から首突っ込むやつじゃないよ。万が一なにか言われてもユカシイがうまくやるだろ」

「ごめんね。リンまで変な目で見られることになって」

「それは別に。でもユンデとふたりきりになるのは許さないからな」


 ドキリと鼓動を跳ねさせて顔を上げたヨワだったが、リンは怖い顔をしてにらんでいた。


「知らないかもしれないけど俺、護衛なんで」

「はい、すみません」


 ユンデは盛大に不満がるに違いない。その彼をどうやってなだめるか頭を抱えたヨワはリンに話を振ったが、隣の男のへその曲がり具合も悪かった。そういえばスキンヘッドの護衛を北門に置き去りにした時もリンは怒っていたな、なんて今頃思い出しても遅い。

 リンの前に先回りして謝ったりご機嫌取りしたりするヨワと彼の足跡は、離れては重なる軌跡を描いていた。

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