189 砂浜遊び②

 それは誰かが言い出したことではなかったが、小さなユンデを相手に力をゆるめたスサビに対してユカシイがうまく合わせたことで流れが変わった。

 時々本人も予想していない軌道を描くユンデのボールを、スサビがすばやく反応してレシーブする。まるで足の速い動物のような身のこなしはさすがブラックボア家の者だと目を見張った。しかしスサビの鋭いレシーブを受けとめるユカシイもまた素晴らしかった。彼女の両腕の中でボールは威力を消され、砂に描いた線をぽおんと越えてヨワの元に届けられた。

 そのボールをもっとやさしくユンデに渡すことがヨワの役目であったが、これがなかなか難しかった。ユンデの身長に合わせて高過ぎず低過ぎないところに狙いを定めるまでにも苦戦した。だいたいの距離感が掴めてきても力加減がよくない。弱過ぎて手前に落ちたから今度は腕に力を入れてみればボールはコート外に飛び去っていく。きゃたきゃたとおもしろがるユンデの笑い声を聞きながら、ヨワは魔法ならうまくできるのにと首をひねった。

 だがくり返していれば慣れてくるもので、五十回まであと少しというところまでラリーの記録を伸ばした時、オシャマから声がかかった。


「そろそろお昼にしましょ。リンはどこに行ったの?」


 波打ち際沿いにずーっと目を凝らしてみたがリンはいなかった。どこまで走っていってしまったのか。まじめ過ぎるのも困りものである。


「その内戻ってくるよ」


 スサビの投げやりな言葉にオシャマはうなずいた。なにかに夢中になるリンにふたりは慣れた様子だった。


「今日のランチはトルティーヤバイキングよ!」


 オシャマはそう題して敷布の上に広げた数々の容器と山と積まれたトルティーヤを指した。容器は全部で十もありすべて違う具材が入っていた。

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