184 父の眼差し②
「もちろんです。応えることはできませんが、ユンデの気持ちはうれしく思っています」
「ありがとう」
そう言って差し出された手を握り、ヨワとジャノメはしっかりと握手を交わした。
「きみには災難だろうが、あの子には自由にさせてやりたい。私と同じ道を歩まないように解き放ってやりたいんだ」
手を握ったままジャノメはどこか遠くを見つめる目で、まるで自分に言い聞かせるようにつぶやいた。ヨワが声をかけるとすぐに手を離し笑みでごまかした。
ジャノメが入っていった玄関扉を見つめてヨワは突き出した唇をつまんだ。悪い人ではないがジャノメという人は少し変わっている。ヨワはユンデのことをちっとも災難だと思っていない。そう伝えたつもりだったのだが聞いていなかったのか、鈍いのか、それともわかっていて決めつけているのか、よくわからない人物だ。
「同じ道……。ジャノメさんとウララさんてお見合い結婚だったのかな」
それを後悔している口振りであったが、夫婦はユンデのことをよく話し合っている様子だった。ウララからもそのようなかげりは感じなかったが、一見して夫婦仲というものは他人に計れるものではないということか。あまり自分が突っ込むべきじゃないと思考を振り払って、ヨワはさっそく海に行く詳細な計画を話しているユカシイとリンの輪に加わった。
六月下旬の日曜日。ヨワはリンとともにシジマ家へ寄ってオシャマとスサビと合流しつつ、集合場所である北門に向かった。
スサビは両手に大きな紙袋を持たされてすでに疲れた顔をしていた。オシャマがはりきってたくさんのお弁当を作ってくれたようだ。その彼女の手にも四角い箱が乗っている。こっちはデザートらしい。
ヨワは笑って荷物をすべて引き受けた。浮遊の魔法を使えば重さは関係なくなるし、振動で中身が片寄る心配もない。これにオシャマは感激した。
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