158 ネコを追って①
ヨワの異変を感じ取ったシジマの手が肩にかかろうとしたその時、ユカシイが「あっ」と声を上げた。
「あのネコ、さっきのネコじゃない?」
遊歩道を横切る長毛のネコがいた。毛色も体の大きさもソゾロとよく似ている。ユンデに抱えられたまま帰ったはずだが、ユカシイの言う通りネコは気まぐれな動物だ。途中で飼い主の手から離れたのかもしれない。それともこの近くにユンデの家があるのだろうか。
ソゾロは遊歩道の端で背中をまるめるとくねくねの根っこ道にひらり飛び下りた。
「私追いかけてみる!」
ヨワはとっさにユンデの正体を掴む機会だと思い走り出した。驚くユカシイも止めようとするシジマもついてきた。
ユンデがどうしてネコに姿を変えヨワの元に通っていたのか、本当の姿の彼に会えばわかるはずだ。もしかしたら彼は似た境遇にあるヨワを慰めたかったのかもしれない。反対に慰めてもらいたかったのかもしれない。互いに手を取り合えるはずなのに、ヨワは彼を疑い不誠実な心のまま彼の愛にうなずいてしまったことを謝りたい。いや、ただもう一度会いたい。今のヨワにはユンデがまったく別人に見えるだろう。
ソゾロは思いがけないところで曲がった。家と家に挟まれた細い道だ。人ひとりが通れる幅をソゾロは軽やかに駆けていく。すると脇の物置きを踏み台に塀の上へ飛び乗った。ヨワとユカシイとシジマもつづく。ふと、奥まったところにある民家の窓越しに犬がいてけたたましく吠えはじめた。ところがソゾロは犬を完全無視して塀からまた別の家の塀に進んでいく。ヨワは犬の声を聞いて家主が顔を出したらまずいと思い急ぎ足で通り抜けた。
前方に人々が行き交う根っこ道が見えた。そこに出るのかと思ったソゾロが忽然と消える。慌てて追いかけると根っこ道の下を薄暗い水路が流れていた。
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