159 ネコを追って②
「ソゾロ?」
ヨワの問いかけに水路の中から鳴き声が返ってくる。ヨワは後ろのふたりを振り返った。
「わくわくする」
「実はあたしも」
「ふたりとももうやめにしないか?」
シジマの弱った声を聞き流してヨワは身をかがめ水路に踏み込んだ。水音と湿った空気、少し生臭いにおいがヨワを囲む。根っこ道の歪んだ隙間から日が差し込んでいて視界は思ったほど悪くなかった。
水路の出口が見えた。水の流れは外に繋がっているらしくぽっかりとあいた半円は茜色に染まっていた。だが問題があった。出口は棒で縦にふさがれていた。その隙間をソゾロは難なく通り抜けていく。ヨワは心なしか幅の広いところを選んでどうにか身をひねり出ることができた。ユカシイも問題ない。だがシジマは無理だった。頭さえ通らない。あわや抜けなくなりかけた。
「ダメだ、ヨワ。ソゾロを追いかけるのは諦めてくれ」
「でも……」
ヨワはソゾロを目で追った。水路に入り込んできている根っこを登ってソゾロは鳴き声を上げている。今まで大人しかったのにやけに甘えた声で誰かを呼んでいるかのようだった。ヨワは悟った。もうこの上がソゾロの家なのだ。
「シジマさん、ここを登るだけです。いいでしょ」
言いながらヨワは根っこに足をかけた。だがシジマは許さなかった。「下りてきなさい」と静かな声でヨワの良心に訴えかけてくる。シジマが頑なに止める理由を理解できないヨワではない。ただこれほど護衛がうっとうしいと感じたことはなかった。足をかけてみればなんてことはない。もう手を伸ばせば届くところに水路の縁がある。
たった腕一本のこと。それだけを我慢するには、ヨワは今まであまりにも多くのことを諦め過ぎていた。
「ヨワ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます