137 希望の家族④

「いないよ、家族なんて」

「いるだろ。本当の父親が」


 ヨワとてその存在を思わなかったはずがない。だが本当の父親のことを尋ねるとシトネは激怒してヨワを物置きに閉じ込めた。それが恐怖となり、以来一度も父親のことを誰かに尋ねたことはない。ヨワは実父のことをなにも知らなかった。

 ホワイトピジョン家から追い出された時も本当に血の繋がった父親が自分を迎えにきてくれるのではと思った。しかし期待と同時に、父に対して憎しみに似た怒りや失望を抱いていることも確かだった。二十四年間、なんの音沙汰もなかった。ヨワが生まれたことを知っているのかさえ疑わしい。そう考えると探す気も起きなかった。


「いいよ。今さらだし、私の存在を知ってるかもわからないんだよ。それで拒絶なんてされたら、ほんと、わたしバカみたいじゃん」


 フードの端を引っ掴みヨワは縮込まった。暖かな家族を切望するヨワにとって本当の父親は最後に残された希望だ。だが、だからこそ伸ばした手を振り払われたら今度こそ世界の終わりだ。傷つき磨耗したヨワの心はもう、そんな一世一代の賭けに踏み切る元気がなかった。


「ヨワの気持ちわかるよ。俺だって今さら産みの親に会いに行けって言われたら怖い。でも、それでも俺はヨワにこの先ずっと諦めて生きて欲しくないんだ」

「ど、うして。リンがそんなこと気にするの」

「俺が嫌なんだ。だからこれは俺のわがままだ」


 リンは盃を強く握り締めると残りの酒を一気にあおった。口元からこぼれたひと筋が嚥下するのどを伝った。


「拒絶が怖いって言うなら、もしもの時は俺がヨワの――」


 降って湧いた人の気配がリンの口を閉じさせた。気がつくとススタケが目の前にいてにやりと細めた目でリンを見下ろしていた。

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