136 希望の家族③
ユカシイはそう言ってヨワをからかうと、ハチミツ酒のおかわりを求めて離れていった。
なぜこのタイミングでリンとふたりきりにするのか。ヨワはよほどユカシイのあとを追いかけたかった。しかし見つめていても、盃の酒は減らない。
「世継ぎ問題だと思ってたのに、なんか大事になったな」
「リンも知らなかった?」
「もちろん。庭番の存在だって騎士には知らされてない。父さんはどうかわからないけど。毎日この上にいたのになあ。全然気づかなかった」
リンは天井を見上げて苦笑いをこぼした。ヨワはそんなリンの横顔を見ていた。彼がコリコの樹の衰弱を知らなかったことに安堵する。もし知っていたらやさしいリンは王への忠誠だけでなく国民の平和を思って、自身に選択肢など許さず心を縛りつけていただろう。
「リンが任務を降りていてよかったよ。こんなことに巻き込まれたくないよね」
国のため、国民のため、彼に選ばれるのは嫌だ。どうしようもなくなったらそれでもいい。愛ではなく、義務と使命で結ばれる相手を受け入れよう。でもそれはリンではない。
「違う。俺はそんなつもりで任務を降りたんじゃない」
「じゃあ、どうして?」
リンは言葉を詰まらせうつむいた。
「ごめん。いいよ、答えなくても」
厄介払いをしたわけじゃないと否定してくれただけで十分だった。ヨワはリンに親愛を込めて微笑みかけた。今はもう純粋に恋愛を育むことはできないだろう。リンがヨワの目を見つめた時どうしてもその先に抱える国家規模の問題まで透け見えてしまう。彼の指が竜鱗病に触れた時から、いや、ひと目見た時から惹かれていたヨワとは違う。
「なあヨワ。もし、もしもだぞ。家族がいたら諦めずに生きられるか」
唐突な問いにヨワは首をかしげた。だが答えはもう決まっている。
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