106 もう月曜日②

 月曜の朝といえばヨワが一番に覚えた仕事だ。

 それはまず二十四時間営業の購買部へ行き、自分とロハ先生の分のサンドイッチと、カフェインたっぷりの冷たいコーヒーを買って、教授たちの個室が集まる四号館の三階で寝こけている先生を起こすことだ。

 学者というものは例外なく夜更かしの天才だ。夜〇時など宵の口で、二時、三時を回ってくると気分が頂点に達し、学者仲間で集まり出して討論会がはじまる。休日の夜の過ごし方がだいたいこれだ。

 普段からベッドがありながら机や床を寝床にしている。そんな無茶をしたあとに悪環境で寝たら、月曜の朝は体が起こせなくなって当然だ。

 この悪習慣に気づいたヨワが月曜の朝一番に購買部へ行くと、同じように助手たちがコーヒーを買っていた。使用人と変わりないこの仕事を嫌う助手もいるが、ヨワは体調を崩していたってやめたことはなかった。

 はじめてロハ先生に指示を仰ぐことなく果たせた仕事に「ありがとう」と返ってきた喜びが忘れられない。

 これがないとヨワの一週間ははじまらないのだ。

 バインダーを持って扉を開けると、机にあぐらをかいた騎士がいた。だがそれはリンではなかった。褐色のトサカ頭を揺らして振り向いたクチバは、机から下りてヨワに薬袋を差し出した。


「ベンガラっつう人があんたの忘れ物だって持ってきたぞ」


 代金はツケでいいって、とつづけたクチバから、竜鱗病の薬が入った赤クマ印の袋を受け取った。

 ヨワはクチバを凝視する。なぜ、いつから彼はここにいるのだろう。リンはどこへ行ったのか。

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