94 過去に歩み寄って③
せめて竜鱗病でなかったら、半分の同級生たちがそうしたように結婚相手を見つけてあんな家は自分から出ていった。新たな場所で新しい価値を見出して、生まれ変わることもできたはずだ。
「でももっと嫌いなのは、結局縛られている自分なんだ」
「それはそうだよ。俺たちが抱えている過去は、到底なかったことにできるものじゃない」
ヨワは横目でリンをにらんだ。
「リンはそんなことないように見えるけど」
まさか、と軽く笑ってリンは腰に帯びた剣を鞘から抜いた。
「俺が騎士の鍛練に拘るのは過去のせいだ。もう二度と捨てられたくないから、一日でも早く認められたい」
「ごめんね。私とのことで鍛練ができなくなっちゃって」
気がつけばするりとそんなことを口にしていた。出会った日とは大違いだ。
リンは額を掻いて小さくうなった。
「正直言うと、魔剣使いとの実力差にイライラしていたところだったんだ。自分でも焦りでどんどん悪いほうにいってるってわかってた。だから、うん。そういう意味でも父さんは、俺に縁談を持ちかけたんだって今ならわかる」
剣をまっすぐ立てて、リンは刀身に映る自分自身と向き合った。
「魔剣使いを追いかけても仕方ない。俺は俺の戦い方を見つけないといけないんだ」
リンは顔を上げてヨワに笑いかけた。
「ヨワといて、それに気づいたよ」
頬が熱くなる。ヨワは思わずうつむいてリンから目を逸らした。
どうしてもリンのやさしい言葉を突っぱねたくてうずうずしてしまう。受け入れてしまったら最後、この熱を冷ますことはできなくなる気がした。
「私はなにもしてないでしょ」
「いや。クリスタルの話はすごく興味深かったし、ヨワを見てたら魔法も悪くないかなって思って」
「えっ。リンって魔法が使えたの!」
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