95 過去に歩み寄って④
リンは片足の甲で器用にも剣をくるくるともてあそびながら、腕組みして首をひねった。
「使えるというか、ご利益があるというか」
「お守りか!」
ひょいと蹴り上げた拍子に剣が宙を舞う。それはふわりと吸い込まれるようにリンの手元へ戻った。
「使うって感じじゃないんだよな。痛いし」
ヨワはますますわけがわからなくなった。魔法使いが魔法を発動する際に痛みを伴うなど、聞いたことがない。消耗するのは気力と体力だ。
特に精神力の強さが効果に大きく影響する。魔法を使い過ぎた時は体が石のように重く怠く感じて、意識を保っていられず眠りにつく。ヨワはユカシイからそう聞いていた。
「城つきのレッドベア家の魔法使いが言ってたんだけど、俺の血はたくさんの血と混ざり合って魔法が劣化したらしい。だけど魔力は失ってないんだって」
「どういうこと?」
「魔法を発現させることはできないが、俺の血そのものには力がある」
リンは窓枠から身を離すと、剣を腰に収めて肩を指先で叩いた。
「前に野盗を捕まえようとして肩を斬られたことがあった。流れた俺の血が熱く感じたんだ。そしたらなんだかいつもより調子よくってさ!」
傷を負って調子が上がるなんて、とヨワは呆れかけたがそこで気がついた。それこそがリンの血の力だ。
「つまりリンは怪我をすればするほど強くなるってこと? 諸刃の剣じゃない」
「まあそう言うなって」
リンはヨワの隣に座り込んでにかっと笑った。
「魔法っていろんな形があるんだね」
薬を調合するベンガラとハジキの姿が思い浮かんだ。彼らの魔法は手をひとつ打ち鳴らせば、薬ができあがるというものではない。薬草を調合する技術と知識、それらが魔法と合わさりはじめて効力をもつ。
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