80 ここは眩し過ぎる

「だから私をこの家に連れてきたの……? 私が悲しむ家族なんていないって言ったから」


 リンのやさしさはうれしい。うれしいが素直に受け入れられない自分がいる。捨て子だったのに、自分と同じだったのに、本当の家族と出会えたリンが羨ましい。

 そして心の底からどうしてと叫ぶ声がする。どうして自分のところにはそんな幸せが訪れてくれないんだろう。

 ヨワは立ち上がった。ここにいると自分がまき散らす負のエネルギーで、温かくてやさしさにあふれたこの家を汚してしまうと思った。

 本当はこんな黒い感情をこの家族に向けたくない。これ以上、醜くなんかなりたくない!

 ヨワは込み上げる涙を歯を食い縛って堪え、腕をガリガリ掻きながら早足で玄関に向かった。リビングから「ヨワちゃん」とオシャマの声が聞こえたが、止まらなかった。

 早く暗い場所でひとりになりたかった。

 そうして泣いて、自分で自分を慰めて、眠れない夜が明けないことを願って、それから、それから――


「ヨワ! どこに行くんだ! 夜は出歩くなって言っただろ」


 腕を掴まれて前に進めなくなった。強引に振り向かされて怒った顔のリンと出くわす。家の明かりは届かない場所にいるというのに、掴まれた腕から伝わる温もりが、ヨワを気遣う声が、まぶし過ぎた。

 ああ。この人を私なんかに縛りつけてはかわいそうだ。せっかく光の下に出られたというのに。


「リン、お願い。任務を断って。私の護衛をしないで。私をっ」


 私を忘れて。どうかより良い未来を掴んで欲しい。

 ヨワはリンの胸にすがりつき、やさしい彼を想って肩を震わせた。

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