79 リンの秘密③

「違う。リン、父さんとロハ先生はヨワの相手選びをとても慎重に進めた。ロハ先生からヨワの生い立ちや病、それによって深く刻まれた傷のことは教えてもらってたんだ」


 シジマは最初からすべて知っていた。ヨワは思わず頬の鱗に触れた。


「だからこそ父さんとロハ先生はお前を選んだ。なぜだかわかるか?」


 リンは力なく首を横に振った。彼の心が、怯えが、ヨワは自分のことのようにわかった。親から見捨てられる恐怖。それは生まれてきた意味を失う恐怖だ。


「お前ならヨワの痛みをわかってあげられると思ったからだ。同じ傷を抱えるお前たちだから、ふたりにしか分かち合えない思いがあるはずだ。ヨワに寄り添うにはそこらの男じゃダメなんだ」

「ヨワと俺が同じ傷を抱えてる?」

「ああ。それは父さんの口から語れない。ヨワが許してくれたら彼女に聞いてみなさい」


 ちらりとシジマが視線を寄越してきてヨワは尻もちをつくほど驚いた。騎士団の隊長を侮り過ぎていた。彼はとっくにヨワが覗き見していることに気づいていた。


「リン。ヨワのことだけじゃない。父さんはお前のことも思って選んだ。お前の心の傷に寄り添うことができる誰かがいてくれたらと、ずっと願っていたんだ。同じ痛みを負ったことのない父さんたちじゃ役不足だからな……」


 ふとリンの笑う声がした。


「役不足なんかじゃない。父さんたちには感謝してもし足りないくらいだ。捨て子だった俺を本当の家族として受け入れてくれたのに、疑ってごめん」


 ようやく顔を上げたリンにシジマは歩み寄って息子を胸に抱き締めた。

 ヨワは思いがけずリンの生い立ちを知り、しばし呆然とした。家名を取り上げられ追い出されたヨワと捨て子だったリンは、確かによく似た傷を負っているかもしれない。でも今のリンはヨワが欲しくて堪らないものを手に入れている。

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