かく語りき
吸血鬼お嬢様「ロリータ・ナイトタイム」
ごきげんよう、みなさま。
いかがお過ごしかしら?
私は森の奥にある霧に包まれた屋敷の主…
「元」ね。今は愛しの旦那様が主なの。
とにかく、その屋敷に住む吸血鬼。
…ちょっと。なによ、その顔は。
別にあなたを食べようってことじゃないわ。今はおなかいっぱいだし。
あなた、この森に来るの初めてでしょう?
わかるわよ。だてに長生きして吸血鬼をやっていないわ。
ちょっと私の話に付き合っていきなさいよ。
損はしないと思うわよ?
あなたも知っている通り、この世界は不思議で不思議で、不思議に溢れた世界。
その中でも「森」というのはたくさんの物語を生むの。
例えばこの森ね。
元々は湖しかなかったの。ほら、あっちに見えるのがその湖よ。
あの湖には人魚がたくさん棲んでいたけど、いつのまにかほとんどいなくなっちゃったわ。
今じゃたった二人の兄妹だけ。
しかも兄の方はフラフラとどっかに行っちゃってるの。たまに帰っては来るけどね。
残された妹はつまらない毎日を送っていたわ。
そこで!この私の登場よ!
私にも兄様がいてね。その子の寂しさはわかったつもりよ。
だからね。いつでもお喋りが出来るように湖のすぐ近くに屋敷を建てたの。
その子の名前は「ブルー・アクアライン」。
兄は「レイン・アクアライン」。
レインの親友はね。実はこの森を加護するエルフなの。つまり、王様ね。
名前は「ノシュク・スコグカット」。
綺麗な人よ~♪
森を加護するエルフの力に比例してその森も大きく豊かになるわ。
この森を見て、あなたどう思う?それが多分ノシュクの印象よ。
でね。そのエルフに一目惚れした人がいるの。
私の叔父様よ。当然吸血鬼。
といってもね。叔父様は変わり者でぜっっったいに人の血を飲まないの。
噂だと、自分の特別な人のじゃないと飲まないらしいわ。知らないけど。
多分、その噂は本当ね。
会うときはいつも、叔父様、バラの花しか口にしてらっしゃらないもの。
名前は「ゼロ・アールグレイ」。
あまりに変わり者だから、吸血鬼の中でも違いを示してVampire(ヴァンパイア)と呼ぶわ。
純粋な吸血鬼っていう意味よ。
ノシュクとゼロ叔父様のお話はまた今度ね。
で。
ここから本題よ。
しっかり聞きなさい?
私が話したいのはこの世界においての「名前」なの。
さっきまで私が紹介してきた人たちの名前は、誰もが○○・××っていう風に前と後ろに分かれて二つあるでしょ?
これには意味があるのよ。
どっかの世界だとファミリーネームだとかミドルネームだとかっていうのがあるらしいけど。
それとは全くの無関係ね。
あら?私の名前を言ってなかったかしら。
私の名前は「ロリータ・ナイトタイム」。
生まれた時はただの「ロリータ」だったのよ。
でもね、「吸血鬼」として、この屋敷の主として、認められたときはじめて「ロリータ・ナイトタイム」になったの。
私の名前はどちらもバラの品種の名前。兄様もそうよ。叔父様は…違うわね。
叔父様はバラ「そのもの」だから。
まあいいわ。
とにかく、名前が二つあるのよ。
でもみんながみんな、あるっていうわけじゃないわ。
これには条件があるの。
一つ。種族としての力・特徴が発現している。
一つ。世界において役割が確立している。
一つ。それらが世界に認められている。
一個目の条件が達成すると、大体それで二個目の名前は確定するわ。
ブルーとレインがそうね。
あの二人は人魚の種族だから、水関係の名前になるわ。
私だと、バラの名前と「夜の時間」がかけられているわ。
二個目の条件は、名前がつくタイミングね。
三個目は名乗れるタイミング。
だから、この三つが達成されないと名前は一つだけ。結構こういう人は多いから、気にしなくていいわよ。
でも、やっぱり有名な人ほど「二つ名」、名前を二つ持つことね、の傾向が強いわ。
その方が立場的にも強くなるし、何より「力」「能力」そのものが強くなるから。
まあね、二つ名はひとつの指標だって思ってくれればいいわ。
これからあなたが出逢う人たちの名前、注意して聞いてみて。
二つ名だったら、その人、この世界の中で大切な役割を持ってるはずだから。
それとね。
もちろんあなたもこれから二つ名になる可能性があるって忘れないでね。
あと。これは忘れてくれていいわ。
私も聞いただけの話だから。
この世界にはね。
三つ目の名前を持つ人がいるの。
そのひとは
そのひとは、きっと、私たちのすぐ近くにいるの。
お願い。そのひとのことを見ていてあげて。
そのひとは、誰よりも名前を呼ばれるのを望んでる。
名前を呼ばれるのをずっとずっと待っているの。
おや、お嬢様はお休みになられましたか。
今、残ったクッキーをお包みしますね。
自分を食べないのかって?
お嬢様が食べないと仰ったのでしょう?
今日は特別ですよ。
そう言って、庭師は客人を出口まで案内した。
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