第4話 美少女だが設定付き
良太の家はそれなりに大きい。
海外を飛び回る仕事をしていた父が家くらいは良い物をと、気合を入れて建てたので、二人暮らしなのだが部屋は余っている。
案内をすると言った良太を面倒臭そうな顔で見つめるリム、ソファーから引きはがし、風呂、トイレ等必要な場所を案内し、リムの部屋になる客間に彼女を置いて自分の部屋に戻った。
「ふぅ……どうするんだよ」
ベッドに横になり、一人呟く。
いくら美少女とは言え、全く知らない他人が自分の家にいきなり住むなど、青少年の良太には少し受け入れがたいものがあったのだ。
「どうするって、なにが?」
「……そりゃあ……っわあぁっ!? なんでここにいるんだよっ!」
「良太、不満。だから、話しに来た」
首を傾げる紫の髪の美少女は、それだけで絵になる。
だが、それ以前に扉の開く音すら聞こえておらず、いつの間にかベッドの脇に座っていたリムに気が付かない良太は驚きに声を上げた。
「どうやって入ったんだよっ!」
「扉から……」
「……はぁ、もういいよ」
「ダメ。ちゃんと説明する……」
部屋の入り口を指差すリムだったが、会話のキャッチボールが上手くいかない良太は、何度目かの溜息をつき追及するのを諦めた。
「わかったよ。じゃあ、話してくれ」
「うん。私は魔界から来た」
「……?」
ベッドから起きると、脇に座りリムへと身体を向ける。聞く姿勢を作った良太だったが、彼女の第一声が理解できず、首を傾げ頭の上には疑問符が浮かび上がった。
「むう。……私は魔界から来た」
「いや、聞こえなかったわけじゃないよ……。ただ理解が追い付かないっていうか。魔界?」
固まって首を傾げている姿を見て、上手く伝わらないのが不満なのか再度同じ台詞を言うリムに、良太は困惑したまま言葉を返す。
「そう。この人間界とは別の異世界。私はそこから来た……」
「……???」
良太の頭の上では疑問符が増殖し、さらに音楽を奏で初めていて、困惑は混乱へとバージョンアップしている。それほどに目の前の少女が言っていることを理解しきれないのだ。
「……良太?」
「……あっ……そういう設定か」
透き通る綺麗な声で名前を呼ばれ良太は再起動する。その瞬間、頭の上に電球が光る演出が起き、脳内でリムの話が納得できる理由へと変換された。
目の前の少女はきっと中二病をこねくり回して、オーブンで焼き上げてしまったのだろう。だから、魔界というのは自分の実家で、それほどに恐ろしい目にあって逃げてきた。
そういうことなのだろうと思うと目の前の少女が不憫になってくる。
「リム……俺が悪かった。出来るだけ家に居ていいし、ここに居る間は自由を満喫してくれっ」
「……? わかった。良太がそう言ってくれるなら、私も気が楽」
あまり笑わないのもそういう境遇が理由なのだろう。良太の中でリムの過去が勝手に想像されていく、なんだかんだいって母の遺伝子は受け継がれているのだ。
「それで話の続きなんだけど……」
「いいっ! 言わなくてもいいよ。つらいだろ、実家の話は……だから話さなくてもいいんだ」
想像の中のリムは、それは悪魔のような親にひどい目にあわされている。それを考えると良太はリムに話をさせるわけにはいかないのだ。
「……? つらいから家出したんだけど、なんで知ってるの?」
「想像すればわかるっ! 話たくないだろう?」
顔を上に向け目尻に溜まった涙が零れないようにしながら疑問を返す。その様子を見てリムは訝し気な表情をしているが、良太は上を向いたままなので見ることは出来なかった。
「別にそんなことはないんだけど……」
「いいんだっ! また落ち着いたら話してくれ」
「……ん。よくわからないけど……わかった」
「二人とも~、ごはんよ~」
結局なんの話も聞けないまま、母に呼ばれた二人は階下へと降りていく。話は聞けなかったが、なぜか満足気な表情の良太は、あくる日、自身が考えるよりもハードな一日が来るとは思ってもいなかった……。
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