メイド二人と後輩一人
「あー、やっと終わったー!」
「疲れたな……」
「お二人ともお疲れ様です!」
お昼頃までの自分達のシフトが終わり、僕達は大忙しだったメイド喫茶からようやく解放された。
「この後どうする?」
「私はお二人に着いていくつもりです」
「あ、ちょっと着替えて──」
同時に二人に腕を掴まれる。
「何言ってるの?」
「そのままで回りますよね?」
「分かったから! 手を離せ!」
「よし、行きましょー!」
「さ、行こー!」
ぐいぐいと二人が引っ張って僕を連れ回す。
張替と魚形がぱくぱくとクレープを食べ始めた。
ていうか魚形、さっきオムライス食べてなかった……?
「結構大食いなんだ……」と戦慄しているとクレープを食べた二人が目を輝かせた。
「このクレープ、凄くおいしい!」
「おいひーです!」
一口ぱくりと食べる。
「あ……、ほんとだ」
確かに美味しい。文化祭の出し物にしてはクオリティが高いクレープだ。
ぱくぱくとクレープを食べていると魚形が、「ん? あれって……」と言ってじーっと魚形が遠くを見つめる。
魚形が見ている方を向くと、そこには座敷わらしの格好をした櫻井が、看板を持って呼び込みをしていた。
「あ、櫻井」
「お、三人とも来てくれたんだね!」
名前を呼ばれた櫻井か振り向く。
「櫻井先輩とってもかわいいです!」
「えへへ、ありがとう!」
魚形が褒めると櫻井は頬を綻ばせて喜んだ。
「へー、お化け屋敷か……」
「そうそう、それで私は座敷わらしというわけだ」
ふふん、と櫻井が胸を張る。
なんか嬉しそうだな。
その座敷わらしもコスプレの内に入ってるということだろうか。
「どうする? 入っていくかい?」
「はい! 楽しそうです!」
「そうだね。せっかくだし」
そういうことで、櫻井に三人分の入場料を渡して中に入る。
黒いビニールの暖簾を押し退けて中に入ると、冷房を効かせているのか一気に肌寒くなった。
「なかなか雰囲気ありますね……」
「こういうのは立ち止まると余計に怖いんだよ。さっさと行くぞ、ほら」
「先輩頼もしい……!」
すたすたと歩いていくと、魚形が横に並んで手をそっと手を繋いできた。
「え? 何……?」
「怖いからです!」
「いや、でも手は繋がなくても──」
「怖いんです!」
「そっか……」
その時。
「……」
その様子をじっと見ていた張替が急に腕にくっついてきた。
「わー、怖いー」
「いや棒読み……」
「何?」
「何でもないです……」
指摘するとじろりと睨まれた。
「二人とも狭いんだけど……」
お化け屋敷は教室一つ分の広さなので、通路は狭く、三人が横に並んで行こうとすると大分密着して歩かなければならなくなる。
傍から見れば女の子三人が仲良く肩を寄せ合っているように見えることだろう。僕がいつもの格好だとひどい絵面になっていたかもしれない。
そういった所ではこのメイド服を着ていて良かったかもしれない。
そうして考え事をしていると、影からお化け役の男子が飛び出てきた。
「おばぁ〜〜っ‼」
「わっ!」
魚形がびっくりしてぎゅっと近づいてくる。
僕も不意をつかれて少しだけ驚く。
「びっくりしたな……」
「私も〜」
隣の張替がそう言ってぎゅっとくっついてくるが、君は微塵も動じて無かったよね?
そうやって進み、出口まで辿り着いた。
「いや〜思ったより驚きましたね〜」
「確かに、結構力入ってたな」
「ねー、私も結構びっくりしちゃった」
「それ本当に……?」
そうやって三人で感想を言い合っていたその時。
「奏雨遥真、だったっけ?」
目の前を通った女子生徒たちから聞こえてきた話で僕は固まる。
「ね、楽しみだよね! 明日のミスターコン」
「勝負って面白いよねー!」
「日下部先輩に勝てる訳無いのにね」
「しかも、勝負するのってめちゃくちゃ陰キャらしいよ」
そう言って笑い会う女子生徒達。
僕達はそれを無言で見送った。
「……」
張替が僕を心配そうな目で見てくる。
「僕は大丈夫だから」
ぽん、と頭に手を置いて撫でる。
「そっか……」
「よし、他の所もっと回ろう!」
ぱん! と手を叩いて明るくそう言うと、張替はまだ心配そうな様子だったが、一応納得したように頷く。
その後は途中から櫻井も加えて四人で文化祭を一日中回った。
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