再開と嘘。
翌朝。
僕は登校すると、いつもの通り席に座って勉強していた。
「奏雨ー、呼ばれてるぞ」
教室の扉の前にいた古木が僕を呼ぶ。
僕に用事? 誰だろうか。
呼ばれて行ってみて、僕を呼び出した人物を見て僕は硬直した。
そこにいたのは昨日ナンパから助けた魚形だったからだ。
向こうも僕が出てきた事に不思議そうに首を傾げた。
「あれ……?」
「あー、えっと……」
奏雨遥子を呼んだ筈なのに、出てきたのは地味な男。
魚形は首を捻っている。
「えと、先輩お名前は……」
「……奏雨遥真だ」
僕が名前を名乗ると魚形は「奏雨……」と呟いた。
「奏雨先輩は女の子だったような……?」
まずい。非常にまずい。
昨日は声を一切変えてなかったし、顔も化粧していたが、流石にバレるか……っ!
「でも声も似てるし、何だか面影似てる……?」
まずい……っ!
これはバレ──
「なるほど! 妹さんですね!」
魚形がパッチーン! と指を鳴らしてそう言った。
た、助かった……。
こう言っちゃなんだけど、魚形がバカで良かった……。
「ああ、そう妹がいるんだ」
「そうなんですね。遥子先輩は何組なんですか?」
「ああー、えっと、そう、あいつは不登校だから滅多に学校に来ないんだ」
そう言うと魚形はしゅん、と落ち込んだ。
「そうですか。お礼を言いたかったのに残念です……」
ざ、罪悪感が……!
ごめん魚形、でも僕が女装してるってバレたくない……!
「じゃ、そういう事だから……」
「あ、待ってください!」
魚形が僕の制服の裾を掴む。
「あの、遥子先輩はいつ学校に来るでしょうか……」
「……また当分来ないんじゃないかな」
「そうですか……」
魚形が肩を落として落ち込む。
その時予鈴が鳴った。
「じゃあ、戻るから」
「はい、ありがとございました」
(ごめん、魚形さん……!)
心の中でもう一度謝って、自分の席へと戻った。
僕が席に着くとすぐに担任が入ってくる。
「はーい、席に着けー」
出欠を確認してから、教卓に名簿を置いて連絡事項を告げる。
「分かってると思うが、明日からテスト二週間前だ。しっかり準備しとけよ」
周囲から「ええーっ!」と声があがる。
ふ、毎日の積み重ねがないからそうなるのだ。
僕は毎日予習復習をみっちりとやり込んでいるからな。その点は完璧だ。
今回の定期テスト、一位は容易いな。
眼鏡を持ち上げて、一人くくっと笑った。
★★★
「……」
放課後、図書室へ行くと魚形が机に突っ伏していた。
「えっと、魚形さん何やってるの?」
「あ、奏雨先輩……」
魚形は顔を上げて僕を見るとまた顔を下に向ける。
「私、実は成績が悪くて……」
「ああ、そうなんだ……」
イメージ通りだな。
僕も席に着いて勉強道具を取り出す。ノートと参考書を広げると問題に取り組み始めた。
突っ伏したまま顔だけこちらに向けて見ていた魚形は、そんな僕を見て質問してきた。
「……もしかして、先輩って勉強得意なんですか?」
「まあ、少しくらいは」
それを聞いた瞬間、魚形が跳ね起きて僕の手を掴んだ。
「せ、先輩! 勉強教えてください!」
「は!?」
「私、このままだと留年しそうなんです!」
「り、留年!?」
「今日先生に呼び出されて、このままだと留年する、って」
勉強は苦手そうだと思っていたが、まさかそこまでだったとは……。
魚形がうるうると瞳を潤ませて、頼んでくる。
まあ、勉強を教えるぐらいいいか。
罪滅ぼしもしなきゃいけないし。
「いいよ、どこが分かんないの?」
「ありがとうございます!」
魚形が鞄を持って来て僕の隣に座った。
勉強会が始まった。
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