全裸の第十話。
夕食を胃に入れきって自室に戻ったら、俺のスマホに沢山のLINE通知が来ていた。
鳴ること自体が
「.........?」
しゅぱぱ、とロックを解除して緑色のアプリを開く。騒がしかったのは『二年七組男子(20)』というグループだった。今日、中野くんに招待してもらったやつ。
グループ自体は昨日からあったみたいだけど。
えーと、何々。
『宮原、例のブツはまだか?』
『遅いぞ』
『全裸待機』
『はよしろ殺すぞ』
おい、なんて物騒なトークだ。クラスメイトの殺意が雑。
えーと、例のブツって......ああ。まずい。
『...もしかして、月見里咲耶の少しエッチな写真のことでしょうか』
震える手を抑えながらフリックして送信すると、既読が一気に『19』と表示された。
...みんな暇過ぎじゃない?
『そうに決まってるだろ馬鹿』
『全裸寒い』
『なんのためにバイト早退したと思ってるんだ』
『俺は部活を休んだぞ』
『僕は彼女との約束をすっぽかしてずっと待ってた』
『今年一番の大嘘、頂きました』
しゅぽぽぽぽぽ、と音を立てて流れる返信の滝。
『...もしかして宮原、写真の用意を忘れてたりしねえよなあ?』
ギクリ。中野くんの言葉が目に留まり、背筋が凍る。忘れてたーすまんすまん、なんて、笑い飛ばせる雰囲気ではないことを文面から悟った。
しばらく考え、震えが収まることのない腕に力を込めながら入力する。
『もちろん忘れてなんかないさ。マイハニーの秘蔵写真の数が多すぎて、厳選に時間を取ってしまってるんだ』
そんなものはない。でも、そう言うしかなかった。
『おう、そうか!』
『楽しみにしてるぜ』
『宮原...お前、最高だ』
『今日中に頼むぜ!』
『そうだな!』
等々。流れゆく変態たちの激励メッセージを見届けることなく、スマホの電源を切って放り投げる。後ろでボフン、ベッドに沈む音がした。
ふう...。
マジでどうしよう。
彼女に「写真撮らせて下さい」って
いや、お願いしたら案外「土下座してくれたらいいわよ」とか言いそうな気もする。土下座したくねえしなあ...。
とりあえず月見里さんの居場所を探っておこうと思い自室から出る。部屋との温度差で余計に寒く感じる廊下を自分の身を抱くようにしてやりすごし、隣、彼女の部屋の前に立つ。
なんか緊張するなあ。ハル先輩の部屋の扉を叩くときは感じることのない体の
浮わついた心をおさえつけるために深呼吸を一つして。コンコン、とノックをしてみた。
しかし、何度叩いても返事はない。部屋にいると思ったのに。先輩たちとまだ完全には仲良くなれていない彼女はきっと自室にこもっているだろう、という予想は外れたらしかった。
リビングかしらと思い、ふらふらと階段を降りる。いやでも先輩たちがいるリビングに月見里さんがいるとは思えないけど。
案の定、彼女の姿はなかった。ハル先輩と照先輩がテレビでゲームをしていただけである。
「おおっ!後輩くん、いいところにきたなっ」
コントローラーを持ったハル先輩が振り向いた。
「今から『桃鉄』やるんだけど、宮くんもどう?」
照先輩は洗い物が終わったらしく、エプロンを外して全裸である。だから絶対寒いだろ。あと直接の尻で共用ソファーに座らないで頼むから。
「すみません...今から用事が」
まあまあ魅力的な提案だったが断る。俺には遂行せねばならぬミッションがあるのだ。
「そっか、残念。今日はハルちゃんとやるよ。明日は一緒にやろう」
「じゃー後輩くん。罰ゲームだけでも決めてってよ!」
その場を去ろうとしたが、ハル先輩の言葉に頭を悩ますことになる。
「罰ゲーム、ですか」
「そーそー。照くんが、『負けたら一枚ずつ服を脱いでいくにしよう』って言うんだけど、私は恥ずかしいし...」
おいそれ以上何を脱ぐつもりだこの変態。
俺の
「僕は負けないからね。脱ぐものなんて必要ないのさ」
なぜかキメ顔である。このイケメンめ。
「おっ!?言ったね照くん!『関東の桃鉄修羅』と呼ばれた私の実力を舐めない方がいいよ?」
「ふっ。ハルちゃんこそ。『裸の王様』と名高い僕の運を甘く見てるんじゃ?」
「いざ尋常にっ」
「勝負っっ!!」
どっちの二つ名もダサいな...照先輩の『裸の王様』なんてただの悪口だし。
「...まあ、負けた方がジュース買いに行く、とかでいいんじゃないですか」
テレビ画面を食い入るように見て
...早く月見里さんを探そう。家のどこかにはいるはずだ。
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