男ふたりの第一話。
「...おっ、やっとツッコんでくれたね。いつもより遅いけど、今日はどうしたの?」
平然と
「そりゃね!?新学期の今日くらいはね!?爽やかな朝!ドキドキのクラス替え!みたいな感じでラブコメの主人公っぽい雰囲気で振る舞ってみたかったから、ツッコむの我慢してたんですよ!みてくださいよ、さっきまでの俺のモノローグ!!」
「あーそうなんだね」
生返事の照先輩相手に、俺は思わず立ち上がり熱弁する。
「でもやっぱり我慢できないわ!『宮くんは塩派だったかな?(裸エプロン)』じゃねーよ!あとちゃっかりエプロン新調してんじゃねーよ!」
全く目に毒である。俺があざれあ荘に引っ越すよりも前から、彼は室内で常に
「そろそろ慣れてくれよう。もう半月は経つのに」
照先輩は呆れて
「慣れませんよ。早く服着て下さい。もしくは制服」
「それは申し訳ないけど出来ないって。露出は僕の"
キメ顔で言うのもおかしい。
「じゃあせめて、あそこのパーカーを羽織って」
「しょーがないなあ。今日だけだぞ」
渋々といった様子で、椅子の背もたれに掛かっていた俺のパーカーを羽織る照先輩。
うん、少しはマシになった。俺は座り直し、食事を再開する。
「そういや宮くん。ラブコメやら青春やら言っていたが、君にはもう『嫁』がいたんじゃなかったかな?」
「ああ、嫁は先週の話で死にました」
「そうだったね...お悔やみ申し上げます」
俺の嫁というのは、深夜アニメ『撲滅魔法少女ボコ』に登場する...いや前話で死んだから、正確には登場して"いた"キャラクター、『サキたん』である。リアルタイム視聴してて彼女が殺された時なんかもう、超ショック受けた。後追い自殺しようと俺があざれあ荘を飛び出したのは記憶に新しい。
「いいんです。俺はもう、リアルに生きるんです」
「...あのさ。僕、思ってたんだけど。僕が変人なのは重々理解してるけど、宮くんも大概変人じゃない?」
「露出狂よりはマシです」
すこーし度が過ぎたオタクなだけで、決して俺は変人じゃないのだ。
でもまあこの『あざれあ荘』に変人...もとい個性的な人ばかり住んでいることは認めざるを得ない。もちろん俺も含めて。
まず住人、一人目。目の前の笹野照先輩。三年生の露出狂。しかしイケメン高スペック。
二人目。引きこもり女の
三人目はこのあざれあ荘の管理人、
四人目の可愛らしい先輩は...あれ、普段は照先輩と一緒に朝御飯を食べてる彼女が居ない。
「あの、照先輩。ハル先輩は何してるんですか?」
「ああ、ハルちゃんなら今朝早く、『初登校でそわそわしちゃって早めに登校した新入生の緊張をほぐしてあげるために、一発ギャグを校門前で披露してくるよおおおおおお!!』って言って六時くらいに飛び出してったよ」
「え?マジで何してるんですか」
...訂正。少しじゃなくてかなり変な人である。
「わざわざ新入生のために、だよ。ハルちゃんはホント優しいよね」
「ええ、その優しさがかなりズレてますけど」
しかし彼女、それはもう格別に思いやりに溢れた先輩で、
...いやそれ励まされてねえな。背中押されてただけだった。俺にはあんまり優しくないかもしれん。
俺が先週の出来事を思い返しながらぼんやりしていると、照先輩は「あっ」と、何か思いついたらしい。
「そうだ宮くん。きっと恥かいてるだろうから、ハルちゃんを止めてきてよ」
「嫌ですよ、知り合いだと思われたくないし。照先輩が行ってきて下さい」
「ひどいなあ。でも僕、皿洗いとか着替えとかあるし」
「そうですよね特に着替えは大事かと」
あざれあ荘での照先輩はただのさわやか露出魔なのだが、彼がひとたび制服を着ればたちまち学校一のイケメンなのである。普段の彼を知っているだけにちょっと
そのイケメンは豪快に牛乳を飲み干して口元を拭った後、にこやかに口を開く。
「ね、ちょっと様子を見るだけでいいからさ。心配なんだよ。アレでも幼馴染なんだ」
そういや、ハル先輩と照先輩は幼馴染なんだっけ。確か小学校時代からの
「はあ...まあ。様子を見るくらいなら」
仕方なく承諾すると、照先輩は嬉しそうに言う。
「ありがとー!今日の夕食はペペロンチーノにしたげよう」
「マジですかじゃあ俺に任せてください。行ってきます」
俺は完食した皿を持って流し台に向かう。照先輩のつくるペペロンチーノは、彼の手料理の中でもとりわけ絶品なのである。いやこれがガチでうまいんだよな。
...うん。まあハル先輩、かわいいからなあ。様子見るだけだしいいか。
こうして俺は妙なタスクを課されつつも、新学期初日の学校へと繰り出した。現在朝七時半。
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