空と虚ろ
幽山あき
空に浮かぶ太陽は
プロゲーマーまであと少しだ。少なくともこのゲームなら俺は最強なんだ。今日だって、オンライン対戦で相手を力でねじ伏せたところだ。どうせギルド通同士の対戦だって圧勝のはずだ。
ほら。相手は一回もダメージを与えられなかった。当たり前だ。うちのギルド「空」はこのゲームの個人上位15プレイヤーのみを集め、ランキングから落ちたら上がった人を引き抜くという昇格制度を取っている。入ることのできたプレイヤーは高みの見物に参加できるのである。
かと言っても、ランキングがあまり変化することもなくここしばらくメンバーは変わっていない。
16位にいる「ヒカゲ」というプレイヤーは総合値は上がっているもののうちのギルドに入れるほどの実力はない。俺との個人対戦ではボロ勝ちしてやった。
不動のランキング1位は、不動であるはずだった。
あるとき「空虚」というギルドがランキング上位に食い込んできた。異様な速度でランキング更新をしており、「空」の下に来るまでもうあと少しというところだった。
気に食わねぇ。
そう思った太陽はギルド自体に強化作戦を入れ、対策を取り始めた。
ふと空虚のメンバーを見たとき、納得した。ギルドマスター「ヒカゲ」つまり、空に入れなかったやつや追い出されてきたやつの逆恨みだろう。
またこてんぱんに潰してやる。とうとう、ギルドバトルの日がやってきた。
こちらが殴っても殴っても回復されてしまう。ほとんど無効状態だ。しかし殴ってくるわけでもないので差はつかずにいた。
そして、空、初めての引き分け。もちろん負けではない。しかし、同等に並ばれたことが悔しくて仕方がなかった。ギルド内も負けではないということで気が緩んでいた。
その直後太陽に個人バトルの申し立てが届いた。相手は、ヒカゲ。ここで負けるわけには行かない。ギルド同士だったら危なくても、俺はこのゲーム1位のプレイヤー。そんなすぐに負けるはずがない。はずが、なかった。完全なる、頭脳戦での敗北だった。
俺は空から落っこちた。
地べたを歩く、ただのプレイヤーになった。今でも見上げれば、空がキラキラと輝いている。
俺がランキングを抜かれたときのギルメンの言葉。1位になったヒカゲへの讃美の言葉。
俺は、二度と空には戻れなくなった。今まで費やしてきた時間も、捨ててきたリアルも、すべて、失っただけだった。
空から落ちた自分に、何も価値はなかったのだった。
空と虚ろ 幽山あき @akiyuyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます