勉強会の後
【絢side】
みーちゃん達と別れた後、勉強していた場所へ戻る前に由佳ちゃんから追及された。みーちゃんの事やよしくんとの近況を休憩場所のベンチでいろいろと聞かれた。
「それで、あの約束はどうするの?」
「ううん、そうだねぇ……どうしようかな」
「大丈夫なの? 全然慌てる様子も無いけど……それとも余裕なの?」
心配そうな顔で由佳ちゃんが私を見る。
「余裕とかは無いけど……」
私は返事に困ったような顔をする。確かに、みーちゃんがよしくん達の前で言った事は由佳ちゃんにとって驚く様な事なのかもしれない。
でもみーちゃんは素直に昔のように三人で遊んでみたかったと私は思っている。だから由佳ちゃんが言う程焦ったりしていないけど……
「ても絢、あなたが不利な立場だっていうのは分かっているの、会う事だってなかなかチャンスが無いのに」
「うん、分かってるよ」
「先週だって、宮瀬くんの家まで行って、一緒にお昼を食べたって嬉しそうに話をしていたじゃないの……」
「うん……」
俯き加減に寂しそうに返事をして遠くを眺めていた。私が落ち込んだように見えたみたいで、由佳ちゃんは困った顔をしている。
「ここで絢を困らせてもいけないし、最後は宮瀬くんが決めるだろうから、焦らせてごめんね、絢……」
私が少しの間黙ったまま下を向いていると由佳ちゃんが申し訳なさそうに謝ってきた。
「そんな……由佳ちゃんは私の事を心配して言ってくれたのだから、私こそごめんね……」
由佳ちゃんに向かって頭を下げる。でもこのままではいけない事は分かっている……確かに以前の私が知っている大人しかったみーちゃんとは違う。昔と比べて凄く積極的になったように見えた。
(私も変わらないといけないな)
気持ちを少し切り替えないと、そう思って話を変えて明るく振る舞う事にした。
「由佳ちゃん、そろそろ始めようか……」
「そうね、時間が過ぎたわね」
時計を見ながら由佳ちゃんが立ち上がり、私も続いて立ち席に戻って行った。
重たかった空気が少しだけ軽くなったような気がした。
【美影side】
宮瀬くんと図書館で別れて帰り道、志保が意外そうな顔で私に話しかけてきた。
「笹野さん達に会った時の事だけど、美影は本当に三人で約束する気なの」
「えっ、うん。そのつもりだけど、何で?」
「い、いや、何でって言われても……」
あっさりと私が返事をして聞き直すと、志保は少し困惑したような顔をしていた。
困らせるつもりは無くてただ素直に答えただけなんだけど、もしかしてあーちゃんも……そう思ったら、少し焦ってしまった。
「でも美影って、変わったわよね……」
「どうしたの突然、私がどう変わったの?」
志保の言葉に驚き、きょとんとした顔で志保を見ると何故か嬉しそうな顔をしている。
「そうね……高校に入学してからだんだんと積極的になってきたよね、中学の時は人前では大人しなかったのに」
「ええぇ、そ、そうかな?」
あまり意識はしていなかったので凄く意外だった。私自身これといって何かを変えた訳でもない。
「バスケ部のマネージャーになったのが良かったのかなぁ、それだったら私も誘った甲斐があったよ」
「どういうこと?」
意味深な笑いをする志保を問いただそうとしたけど、微笑したままで答えてくれない。でも志保が言いたい事は何となく察しが付いた。
(宮瀬くんの事を言っているに違いない)
確かに、高校で宮瀬くんと再会した事は私にとって大きな出来事だった。あの頃、宮瀬くんは私の事を全然覚えていなかったけど……
改まった表情で志保が私の顔を見る。
「美影がポジティブになって凄く嬉しいし、一緒にいて毎日が楽しいよ」
「もう、志保ったら……」
満面の笑みの志保の顔を見ていると少し恥ずかしくなってしまって思わず反対を向いてしまう。でも昔からの親友の志保に褒められたのはとても嬉しかった。
中学時代が楽しくなかったって事はないけど、きっと今が一番楽しいのかもしれない。
それにあーちゃんとも再会出来て、これからまた一段と楽しみが増えたような気がする。
でもあーちゃんとは、やっぱりライバルのままかもしれない、だからと言って仲悪くなりたくないし……私のワガママなのかなぁと考えていた。
「由規は美影の変化に気付いているのかな、でも鈍そうだからなぁ」
「ふふふ、どうだろうね〜」
笑って誤魔化したけど、この前に宮瀬くんと一緒に出掛けた時にちょっとだけいつもと違う感じだったから気が付いてるかもしれないと思ったが、志保には黙っておいた。
「後は由規次第だね、どうするんだろう……」
志保が独り言のように言っていたが、もし宮瀬くんを焦らせていたらと少し不安になった。
また明日時間があれば宮瀬くんと話をして誤解がないようにしようと思った。
(私があーちゃんに会った事で無意識に焦っているのかなぁ)
少しだけ自己嫌悪になりそうになり、急に黙って暗い表情になったので、志保が心配そうに私の顔を覗き込む。
「うん、大丈夫だよ、ありがとう志保」
心配させないように微笑んで返事をして、気分を変えようと話題を変える。
「そうそう、明日から試験だよ、部活に参加できるように頑張ってよね、志保」
私が急にそう言うと志保は上の空で聞いてそっぽを向いていた。「もう……」と私が呟くと志保は薄笑いで少しだけ早足になり逃げようとしていたので、思わず笑いそうになってしまった。
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