遭遇 ③

 次の試合まで時間があるので、休んでいるうちに絢にメールを送ることにした。応援に来てくれたお礼とあまり目立たないようにとお願いをする。直ぐに返事が返ってきて「ごめんね、気をつけるよ」と返信があった。これだと絢だけが悪いみたいだったので、また一言お詫びを送信するとまた直ぐ返事が来た。

 その後も何度かメールをやり取りして、最後に「次の試合も観戦するから頑張ってね」と励まされた。隣にいたチームメイトに「ニヤニヤして気持ち悪いぞ」と突っ込まれてしまった。


 待っていた間の二試合目もハーフタイムが終わりボチボチ次の試合の準備をしようと休憩していた場所から移動していた時に、ついさっきメールをした絢達と遭遇してしまった。普段はメールなどでやり取りしているが実際に顔を見て会うのは一ヶ月ぶりぐらいだ。


「久しぶりだな……」

「うん……」


 お互いに恥ずかしそうにして俯き加減で顔を見ていない。その様子を見て一緒にいた白川が呆れた顔でため息を吐き、強めの口調で俺と絢に小言を言い始める。


「もう、二人共、何してるのよ。本当に進歩ないんだから……」


 メールでは色々と話せるのだが顔を合わせるとなかなか言葉が出てこない。一年以上も会っていない期間があって、それからまだ三回しか会っていないのだから緊張してしまう。


(中学生の頃はこんな事なかったのに……)


 何か話さないといけないと焦っていたら、俺の姿に気が付いた橘田先輩が離れた場所から呼んでいる。しかし絢達には気が付いていないみたいだ。


「ごめん、先輩が呼んでるみたい」

「そうね……試合頑張ってね。また応援してるよ」


 絢も何か話したそうな顔をしていたが、諦めたのか優しく微笑して俺を見送った。その隣りで白川はやれやれという顔で俺と絢を見ていた。

 俺は先輩の所に小走りで向かうとそこには志保も一緒にいたのだが、俺の顔をジッと見ている。一瞬、ヤバイなと誤魔化そうとしたがあっという間にバレてしまった。


「ねぇ、由規。あれってやっぱり笹野さんだよね」

「あ、あぁ、そうだよ……」


 俺がさっき走って来た方向を志保がジッと眺めていて、恐る恐る答えると志保は思った通りだという表情をしていた。


「来てたんだ……」


 志保は小さく呟いてまだ絢達がいた方向を見ている。

 先輩が「行くぞ」と声を掛けたので俺は先輩について行こうとしたが、志保はまだ立ち尽くしたままだった。そのまま放っておく訳にもいかないので、志保に声を掛けるとやっと我に返った表情で慌てて先輩と俺について来た。

 志保から何か追及されるかと身構えていたが、何も聞かれなかった代わりに目を合わせる事もなかった。


 前の試合も終わり俺達のチームの試合が始まろうとしていた。志保は美影と何事もなかったかのように試合の準備をしている。俺はウォーミングアップをしながら志保達の様子を見ていたが、普段と変わらない様子だったのでとりあえず安心した。

 いよいよ試合が始まり早速、ボールが橘田先輩に渡りゴール下に入った俺にパスが来る。相手のディフェンスが追いつかなくて、フリーのチャンスでシュートを打つが入らなかった。しかし直ぐに長山がリバウンドを取って、先取点を決めてくれた。

 チームメイトからドンマイと声を掛けれる。長山からも「頼むぞ」と肩を叩かれる。俺は気落ちしない様にするが、再び簡単なシュートを外してしまう。


(あれっ、なにかおかしいぞ……気持ちが浮き足だっているのか?)


 試合前の絢の事と志保の表情が頭に思い浮かぶ。平常心でいくぞと自分に言い聞かせるが空回りしてまたシュートをはずしてしまった。さすがに落ち込んでしまい、ヘコんだ表情をしているとベンチから大きな声が聞こえてきた。


「宮瀬くん! しっかりしなさい‼︎」


 普段、大きな声を出す事のない美影が、それも怒ったような声を張り上げるのでチームメイトが皆んな振り向き驚いている。俺はその声で目が覚めたような感覚になった。


(そうだ、大事な試合なんだ)


 俺は頬を叩きもう一度気合を入れて、美影に「大丈夫だ」と合図を送ると小さく頷いて笑顔に戻っていた。それからはシュートを外す事なく確実に決めて、尻上がりに調子を上げていった。ハーフタイムの時は普段の美影だったので安心したが、美影がいてくれたから調子を取り戻せたんだと感謝した。

 試合が終了する頃には、フル出場したこともありチームで一番の得点を稼いでいた。試合も二十点差以上つけて勝利した。

 試合終了後、志保は相変わらず目を合わす事もなく淡々と片付けをしていた。そんな志保の様子を美影は心配になったのか、片付けが終わり引き上げる時に俺の所にやって来た。


「宮瀬くん、試合前に志保と何かあったの?」

「いや、別に何もないんだけど……」


 心配そうな表情の美影だが、志保に何か言った訳でもないし何かをした訳でもない。あるとしたら……そう思っていると背後から声をかけられる。


「お疲れ様、勝てて良かったね」

「あっ、ありがとう」


 一瞬、驚いて直ぐに振り返ると笑顔の絢と白川が立っていた。

 その様子を一緒にいた美影が見て、「あれっ」ていう不思議そうな顔をする。


「もしかして、あーちゃん?」


 突然、美影が絢に話しかけると絢も反応して「んっ……」て顔をする。何か思い出したのか絢は驚いた顔をする。


「みーちゃん?」

「そうよ、久しぶり〜元気にしてた?」


 美影のテンションが上がり懐かしそうな顔をしていて絢も同じ様子で再会を喜んでいるようだ。絢と一緒にいる白川は、あららって困惑したような顔をしている。


「どうしたの、こんな所で……」

「えっ、よ、じゃない、み、宮瀬くんの応援に来たのよ」


 絢は美影の質問にかなり動揺しているようだ。


「みーちゃんこそ、バスケ部のマネージャーしていたんだね」

「うん、宮瀬くんが入部していたからね」


 美影が当たり前のような顔で言っていたが、俺はその発言に驚いて、絢も同じような反応をしている。絢の横にいた白川が今度はあ〜あぁという顔をして天を仰いでいる。

 絢は気を取り直して微妙な笑みを浮かべているが、美影は特に気にした様子は無い、ある意味で天然な所があるので仕方がない。


「あっ、そうだ、あーちゃん。携帯の番号教えてよ」


 笑顔で美影が絢に話しかけると、絢は鞄から手帳を出してページをちぎり番号を記入する。


「はい、じゃあ今度遊びに行こうね」


 絢も再び笑顔で美影に手渡し、美影は嬉しそうな表情で頷いている。俺はその時はまだ深刻に考えていなかったが、後々大変な事になるとはこの時思ってみなかった。


「お〜い、宮瀬、早くしろよ、置いて帰るぞ〜」


 先輩達が片付けながら呼んでいるのに気が付き、俺は美影と顔を見合わせる。


「今日は応援ありがとう、またな」

「うん、明日も頑張ってね。みーちゃんも」


 俺と絢が別れの挨拶をすると、美影も笑顔で頷き二人で慌ててチームメイトがいる所に走って行った。そこへ行くまでに美影が「宮瀬くんは覚えてないかなぁ」とポツリと呟いていたが、この時は何の事なのか分からなかった。

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