休日とお出かけ ①

 今日は終業式で二学期が終わる。学校に着いてから朝のホームルームが始まる間にこの二学期は色々な事があったなと振り返っていると、教室の入り口の方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「お―い、由規」

「何だよ、珍しいなぁ、わざわざ教室まで来て何の用だ?」


 志保が教室まで来る事は滅多にない、用事があっても大体部活の前後に言ってくる。


「明日、何か用事がある? もし無かったらお願いを聞いて欲しいのだけど」


 手を擦り合わせてお辞儀をしながらお願いをするような顔をしている。志保は普通にしていると可愛いらしい。元々、背も低いので見上げる感じでそんな顔をされるとさすがに無下に出来ないのでとりあえず聞いてみることこにした。


「分かった、特に用事も無いし、暇だからいいけど……あまり変なお願いは勘弁してくれよ」

「変なお願いなんかしないよ。えっと、由規の部活の復帰と復帰後の初勝利をお祝いをしようかなと……」


 いつもの元気な表情と違って、恥ずかしいのだろうか顔を赤くして俺の様子を窺っている。そう言われて素直に嬉しいが、お祝いって何をするのだと疑問になる。でも志保には色々と世話になったし、そのお願いを受けることにした。


「それでどうしたらいいんだ?」

「うん、朝の十時に駅前で待ち合わせね」


 まだ顔は赤いがホッとしたようで嬉しそうな顔をしている。


「分かったよ、十時だな」


 俺は頷き、志保の顔を見てニコッとすると志保は約束が出来てご機嫌な軽い足取りでそのまま教室を出て行った。

 その日の放課後の部活の時に、何故か志保は全く明日の予定を話すことはなかった。そして部活が終わり帰る時に一言だけ「楽しみだね」と俺にだけ聞こえるように言って楽しそうに美影と一緒に帰っていった。


 翌日、俺は約束の時間より早く待ち合わせの場所に行った。街並みは昨日がクリスマスイブだったのでまだクリスマスの飾りが残っている。


 (志保の事だからお祝いとか言って結局デートがしたいだけなんだろうけど、今回は素直に聞いてあげよう)


 十時少し前に志保が住んでいる方から来るバスが到達した。多分このバスに乗っているのだろうと眺めていたら、予想通り志保らしき人物が降りてきた。それに引き続き見たことある人物が降りて来た。


「あれって、美影じゃない?」


 思わず独り言が出てしまうくらい意外だった。志保の私服姿は昨年の夏の合宿の時に見たので何となく想像した通りだったが、美影の私服姿は今回が初めてだった。

 美影らしいと言ってしまえばそのままだけど、清楚な感じで可愛らしい感じが漂う雰囲気だ。別に志保の私服が可愛くない訳ではない、志保らしく爽やかな感じでピッタリだ。


「おはよう、由規。待った?」


 志保が嬉しそうに声をかけてきた隣で少し困惑した表情の美影がいる。


「何で宮瀬くんがいるの?」

「何で美影が?」


 俺もほぼ同じタイミングだった。すると志保が楽しそうな顔で俺と美影を見る。


「だって三人の方が楽しいじゃない」


 そう言って笑いながら胸を張るが、背が低いのであまり迫力がはない。志保が言うには、美影に俺がいることを話すと遠慮するし、俺にはただサプライズとのことだった。きっと志保なりに気を遣ったのかもしれないし、単純に二人っきりが恥ずかしかったのかもしれない。

まだ今日の目的地を俺は知らないので気を取り直して尋ねてみた。


「それでどこに行くの?」

「えっと、この前オープンしたアウトレットモールだよ」


 志保が張り切った様子でテンションが高めだ。アウトレットモールはこの駅から三駅ほど乗り、降りた駅からシャトルバスに乗り、ここから三十分弱で到達する。背の低い志保が張り切った様子で前に立って先導しようとする。


「じゃあ行くよ!」


 俺と美影が顔を見合わせて小さく笑い、志保の後ろについて行った。


 電車はあまり混んでいなかったが、シャトルバスが思ったより混雑していた。予定より少し時間がかかったがアウトレットモールに無事到着した。


「やっぱり人が多いわね……」


 出発前の勢いが消えて志保は少しウンザリした顔をしている。シャトルバスに乗った時、人に埋もれていたので多分その影響かもしれない。


「仕方ないさ、一応今日はクリスマスだし、冬休みの初日だし……」


 俺はそう言ってぐるっと人混みを眺めて、美影に同意を求めると苦笑いをしていた。


「そうね。ここに居ても仕方ないし、行きましょうか」


 美影と俺はそう言って歩き出そうとした。


「ちょっと待って……」


 今度は志保が慌てた様子で間に入ってくるので、不意をつかれた俺は驚いてしまう。


「い、いきなり、な、なんだよ」

「えっとね……迷子になったらいけないから手を繋いで行こうかなぁ……」


 志保は恥じらいながら段々と声が小さくなる。その姿を見て一息ついて今日は志保の言う通りにするつもりだったので手を差し出そうとした。

 その瞬間、俺の横からスッと手が伸びてきて志保の手を取る。びっくりしてその手の主を見ると美影だった。美影はちょっぴり意地悪そうな笑みを浮かべている。


「ふふふ、大丈夫だよ、志保。私が繋いであげるから安心して」


 志保は一瞬呆気にとられて美影に繋がれた手を見た。残念そうななんとも言えない顔をしていたが、諦めて美影には何も言わずに大人しく手を繋いでいた。

 俺はそんな二人が可笑しくて笑いそうになったが、二人の後ろをついて行き、アウトレットを廻ることにした。


 

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