真実は嘘だった
今日の昼食は、オムライスにしよう。レアスライムもオムライスでいいかな?
スライムを捕まえに行き、帰って来てそうそう、空腹に堪えながら台所に立つ。スライムを師匠に預け、棚や時間停止がかかっている私専用の袋から食材をだす。この袋に食材を入れておくと買ったままの新鮮な状態が保てる。
食材を取り出し、ヘアゴムで髪をひとつにまとめ結ぶ。
手を洗い、昼食を作っていく。
「リタ、今日の昼食は?」
椅子に座りながら、スライムを撫でている師匠が聞いてくる。楽しそうに戯れている師匠とスライム...........。
くっ、楽しそう。
手を動かしながら、師匠に答える。
「オムライスです。」
「おむらいすかー。それは、楽しみだ。」
笑顔でスライムに風魔法を使い宙に浮かす。
ほんと、楽しそうだな...........。
「あ。リタ、後でこのスライムに名前つけてあげなよ。」
名前か。うーん?
考えておかなくちゃ。
「名前つけておかないと契約したことにならないからね。」
「契約?」
手元は、動かし続けながら声だけで反応する。
契約とは、何だろう。よく小説であった感じのやつだろうか?
「うん。契約。それしないと、この子捕まえられちゃうよ?」
「マジか! それは、早く契約しないと...........。ところで、契約って何?」
契約するのはいいとして、契約については知っとかない。
「契約って言うのはね。この魔物は、僕のだよって印みたいなモノだよ。魔物は、契約すると魔力量が増えたり、いろんな魔法が使えたりと進化するんだよ。」
私が契約について聞くと簡単に分かりやすく説明してくれた。なるほど、スライムが進化するのか........。すごいな。
「名前考えないとなぁ~。」
しばらく考えながら料理をしているとオムライスが完成した。ふっくらとさせた玉子が食欲をそそる。我ながら、美味しそうにできた。棚からお皿を出して、オムライスをもる。
デミグラスソースを最後にたっぷりもってテーブルにもっていく。師匠がテーブルを拭いてくれている。
「はい。完成。オムライス。」
美味しそうな香りが私の鼻に届く。
お腹空いた。
テーブルにオムライスののったお皿を三つおき、いつもの椅子に座り食べる準備をする。隣にスライムをおき、オムライスをすすめる。
「いただきます。」
そう言って、手にスプーンを持ちオムライスを食べる。
「美味しい。さすが、リタ。」
美味しそうに食べる師匠を見て、私も嬉しくなる。
スライムの方を見ると、パクパクと食べている。
どうやって食べているんだろ? 口、どこだろう?
「ありがとう。」
オムライスをスプーンですくい、口に運び食べていく。
美味しい...........。
※※※
「そう言えば、ポーションの材料にスライム捕まえなくてよかったの? この子は、ダメだよ?」
オムライスを食べ終わり、食後のお茶をのみながら師匠に聞く。最後の言葉を言いながら、膝にのせているスライムを手で守る。
「あぁ、あれ。嘘だよ。」
お茶を飲みながらさらっと事実を言う。
さらっと言われた事実にお茶を飲んでいた手が固まる。
ん? 今なんて?
「う...........そ?」
強ばる声で今聞いた言葉を繰り返す。
何だって? スライムをポーションにいれるのが...........嘘だ、と?
「うん。嘘。面白いと思って...........ね?」
「じゃあ、ポーションにスライムが入っているのって言うのは...........。」
「嘘だよ。実際は、薬草でポーションを作るんだ。スライムをポーションに入れることはないよ。」
なんだ、と?
この世界の人は、スライムをポーションにぶちこむことはしないのか?
嘘なのか?
「騙された........。」
下を向きながら、息を吐く。膝に座っているスライムが心配した様子をみせ私の顔を覗く。
「心配してくれるの? ありがとう、シューくん。」
「シューくん?」
膝に乗るスライムのシューくんを抱きしめながら師匠に向かって話す。
「そう、シュー。この子の名前だよ?」
「へぇ~。いいんじゃない? シュー。...........よろしくね? シュー?」
イケメンスマイルを浮かべながら手を振る。
くっ、イケメンめ。
シューくんを見ると師匠を見ながら左右に動いていた。
挨拶をしているんだろう。かわいい。
と、シューくんを見つめているとシューくんの身体が急に光だした。
「何!?」
シューくんを胸に抱き抱え、まぶしい光に目を細める。
まぶしい。
「...........契約の印だね。進化が始まったんだよ。」
「進化? 早くない!?」
ものすごいスピードである。
徐々に光がシューくんの身体に収縮していく。
シューくんの見た目は、前と全然変わらないが魔力量が前よりも上がっている。
「変身魔法とか使えそうだね。」
「変身魔法?」
「うん。これから、シューがリタといるならそのスライムボディを利用して形を変える変身魔法を使えるようになった方がいいと思ってね。」
椅子に座りながら、お茶を一口飲みシューくんに向かって話す。そして、シューくんを抱えている私に視線を移す。
「どうする?」
「どうするって...........、シューくんが私といてくれるのは嬉しいけど、変身魔法を覚えるかどうかは、シューくんしだいだよ。」
シューくんは、どうしたいんだろう?
シューくんを覗きこむと、身体を上下に動かし始めたシューくん。やる気充分な様子。
「やる気だね。じゃあ、シューの魔力が安定してから変身魔法の練習を始めよう。」
ぷよ!
私の手からシューくんが飛んで、師匠の前で飛び跳ねる。
かっわいーー!!
「シュー、練習は甘くないよ。ついてこれるかな?」
ぷよ!!!
さっきよりも高く飛び跳ねる。
「「かわいい........」」
師匠と私の声が重なったのだった。
※※※
この世界では、魔物と契約できることは難しい。
魔物使いが魔物をテイムすることはあるが、契約という縛りをすることはない。契約は、強制ではなく、魔物が自分に名前をつけてもいいか許可をださなければならないため契約できるものは少ない。
リタがスライム........その上のレアな核を持つスライムと出会いなおかつ、珍しい個体と出会える運の良さ。奇跡と言う言葉では、言いあらわせられないこの幸運。
普通ではあり得ない。
さらに、契約を結びスライムを進化させ魔力量を増やすという異常を起こしたリタ。
その事に気づかないリタは、今日も楽しく暮らしている。
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