始まりの誕生
その日、この世界に、運命の少女が生まれた。
それは、新たな物語の始まりなのか。
それとも、物語の終わりなのか。
誰にも、わからない。
けれど一つだけわかるとしたら.........
きっと......
※※※
ラスク王国から南に向かって行くと見える山、その向こう側にある自然豊かな村。レレ村。
総人口、二十人弱の小さな村に住む女性、名をカミラという。黒の髪を横で結び、黄緑色の瞳を持つ彼女。絶世の美女と呼ばれるような容姿をしている彼女のお腹の中には、赤ん坊がいた。
そして、今、彼女は自分の子供を出産した。隣には、この村に住む年配の女医や出産を経験した女性達がカミラの出産に立ち合っている。産まれたばかりの赤ん坊を年齢の女医が取り上げカミラに見せる。
「女の子だよ。カミラ。」
優しい口調でたった今産まれた彼女の子供をカミラの横にそっと寝かせる。泣き続ける娘に彼女、カミラは微笑みながら手を伸ばす。
「‥‥‥‥産まれた。‥‥‥‥‥‥私の‥‥‥可愛い‥‥‥‥愛おしい娘‥‥‥‥。」
弱々しい声音で、目に涙をためながら隣にいる、産まれたばかりの娘の頬をさわる。
「おぎゃあぁぁぁぁぁぁああ!!!おぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
泣き続ける娘を見ながら、一筋の涙を流しながら微笑む。
出産の手伝いをした村の女性がカミラと赤ん坊を交互に見ながら赤ん坊の容姿を話す。
「カミラ、この子あんたに似ているよ。綺麗な黒髪に黄緑色の瞳だよ。綺麗だね。」
カミラに視線を移し、笑いかける。その事を聞きカミラは、嬉しそうに、そして少し寂しそうにしながら隣にいる娘に話しかける。
「私に似たのね。貴方は‥‥‥。嬉しいわ。‥‥‥‥あのね? 貴方に私と‥‥‥‥‥‥‥‥‥が決めた名前をもらってほしいの。」
さっきよりもよりいっそ弱々しいカミラを女医が急いで診る。出産で力を使いはたしてしまった彼女は、残り少ない時間であることをさとっていた。
「カミラ!!意識をたもちな!!」
手に魔法を込め、治療魔法をかける。一人が家を出て治療魔法を使える人物を呼んで来るため走る。
「カミラ!!頑張りな!今、レスターさんを呼んできてもらっている! 根性みせな!!!」
「‥‥‥先生‥‥‥‥が‥‥?」
よりいっそう弱々しくなったカミラが、たどたどしく呟く。
「カミラ!!」
勢いよくヘアに入り、カミラの横に移動する。緑色の髪に金の瞳を持つ青年がカミラの手を握り、治療魔法をかけ始める。
「‥‥‥‥‥先生‥‥‥。あのね、お願いがあるんです。」
レスターに握られた手を力いっぱいに握りかえすカミラ。が、その力はレスターからしたら対して変わらない感覚だった。
「何? 言ってみてごらん?」
力強い瞳で、カミラを見つめるレスター。治療魔法をかけ続けながらカミラに聞き返す。
「この子のこと‥‥‥‥‥お願いします。この子を‥‥‥育ててほしいのです。」
「何を言うんです!!」
レスターの向かい側で治療魔法をかけ続ける女医は、言葉に力を込めて、声を荒げる。
「‥‥‥‥私は‥‥‥もう‥‥‥、ダメだから‥‥‥。」
「‥‥‥っ‥‥‥!!!」
女医は、その言葉を否定しなかった。いや、できなかったのだ。事実、カミラはもう助からない。出産で力を使いはたしてしまったためである。彼女の手を握り、治療魔法をかけ続けるレスターもわかっているが治療魔法をかけ続ける。
「‥‥‥‥お願い‥‥‥‥します‥‥‥‥。この子を‥‥‥私の、大切な‥‥‥娘を、お願い、します‥‥‥。」
涙を流しながら、レスターに願う。その姿を見つめる村の女性達。彼女達も瞳から涙を流す。
「‥‥‥‥‥わかった。‥‥‥‥僕が、この子を育てるよ。」
真剣な表情を崩し、カミラを安心させるように微笑む。そして、よりいっそ手を強く握る。
「‥‥‥‥ありがとう、先生‥‥‥。」
そう言って、カミラはレスターから視線を移し自分の娘を見る。
「ごめんね‥‥‥‥‥。貴方を、育てて‥‥‥‥あげられなくて‥‥‥。その代わり‥‥‥私の、世界一の、魔法の先生に‥‥‥‥貴方を頼んだわ。元気に、育って‥‥‥‥ね。」
「‥‥‥‥‥カミラ。この子の名前は?」
レスターがまだ聞いてない赤ん坊の名前を聞く。カミラは、幸せそうな顔をしながら自分の娘の名前をしゃべる。
「‥‥‥リタ‥‥‥‥。リタ・クレール。‥‥‥クレールは、私の、大切な‥‥‥友達から、もらったの‥‥‥。大事な、大切な‥‥‥‥あの子から‥‥‥‥愛おしい‥‥‥娘‥‥‥へ。」
愛おしそうに、懐かしそうに、娘への名前を語る。彼女の瞳には、カミラにとっての大切な友との幸せな日々を思いかえしていた。
「幸せになってね‥‥‥‥。」
最後の力を込め、幸せそうに微笑む。
そして、ゆっくりと目蓋を閉じた。その日、カミラの人生に幕が閉じた。
「‥‥‥‥カミラ‥‥‥。」
もう二度と喋らず、目も開けない彼女の手をさっきよりも強く、優しく、握る。治療魔法をかけるのをやめ、カミラを見つめながら静かに涙を流す。
レスターの反対側にいた女医は、カミラから手をはなし、涙を流す。出産に立ち会った彼女達村の女性も涙を流す。
その中で、レスターはある日のカミラとの話を思い出していた。
※※※
『先生、私が死んだら、お花がたくさん咲く綺麗な所にお墓を作ってほしいんです。頼めますか?』
レスターとカミラが師匠と弟子として過ごしていた時のある日カミラは、笑顔でそんなことを言った。
『カミラ、君‥‥‥‥。何で、僕より死ぬのが早い前提なのかな?』
少し、動揺しながらいつもの調子で聞き直す。
カミラは、少し寂しそうにそれでいて幸せそうに答える。
『だって、私は先生より早く死んでしまうからです。‥‥‥‥‥先生は、まだ死なないんですよね?』
『そうだね。』
その言葉を聞き、カミラは笑顔で前を向く。
『なら、私が死んだらお願いしますね?』
カミラは、レスターに背を向けながらしっかりした口調で言う。レスターからは、何も見えないためカミラがどんな表情をしているかわからない。
『わかったよ。』
ため息をつきながら、カミラの背に返事をする。フフと笑う声が前から聞こえる。
『ありがとうございます。先生。』
※※※
「わかっていたのかい? カミラ?」
今となっては、わからないあの日の意味について彼女に問いかける。返ってくるのは、ながい沈黙。
「‥‥‥‥約束、だったからね。君のお墓は、君の希望通り花がたくさん咲く所にしたよ。‥‥‥‥ずっと、花が咲続けれるおまけつきだよ。喜んでくれると嬉しい。」
白い石でできたお墓を見つめながら、喋りかける。
カミラが死んでから二日、レスターはカミラとの約束をはたすため、彼女が静かに眠れそして、花が美しく咲く場所を探した。以前、レスターが行ったことがあり、カミラと約束した場所に彼女を眠らせることに決めた。
「一つ、カミラには、悪いけど‥‥‥‥ここにこれるのは、僕と君の姉弟子達、そしてリタだけだよ。‥‥‥‥あの男は、絶対にここには連れてこない。絶対だ。‥‥‥‥‥ごめんね。」
レスターは、カミラが眠るお墓に触りながら、罰が悪そうな顔をして謝る。そして、優しい声音で呟く。
「・・・・・・・」
その声は、風が吹いたため聞こえない。
「カミラ、リタのことは任せてくれ、しっかりと育てるから。」
そう言って、彼女の墓に背を向けて少し歩く。そして、レスターは、その場から消えた。
誰もいなくなったカミラの墓には、さっきよりも強い風が吹く。
※※※
『眠れ、カミラ。いい夢を‥‥‥‥』
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